メーカー
円高から円安へ、株式市場に勢いが戻り、製造業の業績は回復基調で一部に力強い動きも見えてきた。同時に、停滞していた生産拠点の海外移転が一気に進展。これまで厳しい円高の中で、徹底的なコストダウン、事業の選別と経営資源の集中、構造改革など身を削って国際競争力確保に邁進してきた。その成果を発揮する好機到来に、新たな成長をめざしてグローバル市場へ船出する。
電機・重電・コンピュータ・電池
業界挙げて国際競争力の回復に注力する
大規模な事業構造改革の成果と期待
国際競争力の回復に向けた大規模な構造改革を遂行中の電機業界。一足早く改革着手の総合電機は社会インフラや重電への事業シフトが進み、改革成果が表れ始めた。総合家電は構造改革半ばだが、利益率の低い薄型TVやPCから家電や医療へのシフト、円安基調の環境変化、固定費削減の進展に期待。
半導体・半導体製造装置
半導体業界再興の正念場
省エネ技術のパワー半導体に注力
日本の半導体業界は、公的支援下で経営再建中の企業をはじめ、各社、事業構造や生産体制の再編に取り組んでおり、グローバル市場での再興の正念場にある。期待は、日本企業の得意とするパワー半導体。各社、鉄道、重電、新エネルギーなど次世代版開発に総力を挙げている。
電子部品
高付加価値の部品の開発力強化とコア技術の利用領域拡大を急ぐ
日系部品メーカーは、競合の多い汎用部品は海外生産、付加価値の高いカスタム部品は国内生産の分散体制でコスト競争力と利益を確保するが、完成品の市況に業績が左右されるだけに、部品の応用分野の拡大が急務。各社、成長が期待される自動車や医療、エネルギー分野での利用拡大に向けた動きが活発化。
精密機器
コア技術の新事業への応用開拓が活発
成長市場の医療機器への参入相次ぐ
カメラ業界はデジカメの縮小に対し拡大を続ける一眼レフ市場で電機系と光学系メーカーのシェア争奪戦。OA機器はペーパーレス化の進展で、新分野でのコア技術の応用に力を入れる。成長が期待される医療機器は、光学、電機、制御・分析など幅広い業界から企業参入が進み、異業種提携、産学連携、共同開発など精力的な取り組みが進展中。
工作機械
低調な世界市場で収益確保に努める工作機械
新たな可能性を求めて動き出したファクトリーオートメーション
外需が収益基盤の工作機械は、欧州、北米、アジアの3極体制でリスクを分散し業績の振れ幅を抑えて収益確保に努める。低・中位機種での国際競争激化には高機能機の開発で対抗する。ファクトリーオートメーションは製造業の生産方式の変化に伴い、自動車産業のみならず他産業でも導入の動きが始まっている。
建設機械
需要回復の北米、東南アジアでの展開が活発化
対応迫られる中国など新興国メーカーの台頭
震災関連需要の収束で国内需要は収縮だが、海外市場が収益源の業界はシェールガスに沸く北米や中国・東南アジアの需要取り込みへ。大手は世界で高シェアを維持する建機だが、近年、参入障壁の低いフォークリフト分野で中国企業が台頭。各社、対応に動き出し、規模の拡大や販売網の強化をめざした企業統合や大型買収の可能性も。
造船・重機・鉄道車両・航空宇宙
オールジャパン体制で業界復活に取り組む造船
世界的な船腹過剰と低価格競争で厳しさ増す造船業界。企業合併や事業再編、生産効率化を推進し、業界を挙げて、技術優位の海洋探査船や高付加価値のエコシップの開発で生き残りをかける。世界的な航空輸送の拡大基調に旅客機需要が増大しており航空機製造業界のビジネスチャンス。グローバル市場に向けた自社技術の売り込みが盛ん。鉄道車両では重工系、鉄道系、総合電機系が海外受注の積極化を図る。
自動車・二輪・タイヤ
業績のV字回復から、もう一段の飛躍へ
円安背景に世界シェアの拡大に邁進中
自動車各社の業績は為替の円安転換で大きく伸長。国内需要は不振だが北米市場が好調、新興国ではロシア、インド、ASEAN諸国で生産増強の快進撃。円高の中での身を削るコスト削減が、円安下で強力なコスト競争力となり強みになっている。次世代に向けたエコカー開発や環境規制への対応も進展中。
鉄鋼・非鉄金属・セラミック・セメント・紙・パルプ
再編による合理化効果を期待する鉄鋼
円安のプラス効果で収益改善の非鉄
鉄鋼業界は国内需要の縮小、輸出の不振で粗鋼生産量が減少。海外では競合の新高炉が次々稼働予定で、事業環境の厳しさは増す。業界再編による合理化を進めながら、新興国の社会インフラ向け需要や新鋼材開発など成長分野に向けた動きが加速。非鉄は震災関連や住宅建設による内需が増加。先を見据えた各社の方向は、鉱山開発投資で製錬事業の強化に努めるか、金属加工やリサイクル事業などの非製錬事業の強化か、分岐しつつある。
化学・繊維
事業環境の変化に伴う構造改革を急ぐ化学
繊維は高付加価値な産業繊維が順調
アジア市場の需給緩和や中国の樹脂国産化の動きなど、石油化学の事業環境は厳しい。各社はコスト競争力で劣る汎用品から技術優位の高機能品へのシフトを急ぐ。同時に非石化事業の環境・エネルギー・医療分野の強化・拡大も。繊維業界は、航空機向け需要の拡大が期待される炭素繊維など産業用繊維が順調。
化粧品・生活用品
化粧品は中国重視のアジア戦略見直しも
市場戦略と製品投入が的を射た生活用品
国内市場の成熟で活路をアジアに求めて展開中の両業界。化粧品は反日運動の芽が燻る中国市場からベトナム、インドなど周辺アジア諸国へと投資戦略見直しも。生活用品は、高機能の衛生用品が国内外で好調。急成長するアジアの中間層をターゲットにした市場戦略と製品投入が功を奏している。
食品
原料高と円安に熾烈な企業間競争
各社、収益確保の総力戦体制に
大豆や小麦、製油などの原材料高騰に円安で業界の事業環境は厳しい。加えて小売業界の自社ブランド(PB)製品の台頭で競争激化。各社、グループ統廃合や事業再編で固定費圧縮、製造工程の見直しや更なるグローバル化で製造コスト削減効果を狙う。利益率の高い機能性食品や健康食品の開発、医薬分野へ展開など、総力を挙げて収益確保に注力。
飲料
ビール各社の海外事業は更なる進展
清涼飲料はPBの競合で競争は激化
ビール業界は、国内需要が縮小傾向にあるものの業績は堅調。数年来に及ぶ組織再編と海外企業買収の成果が表れて業績に貢献した。大手各社は更なる海外事業の拡大とともに、食品やヘルスケアなど事業領域拡大に力を入れる。メーカー間競争の厳しい清涼飲料業界は、消費者の低価格指向に小売業のPB商品も加わり競争激化。
医薬品
新薬開発原資の確保で事業領域拡大の新薬
政府施策を背景に業績伸ばす後発薬メーカー
高齢化の進展による需要拡大の医薬品業界。医療費削減を進める政府施策の2年毎の薬価改定、後発薬への移行推奨は新薬メーカーには痛手、後発薬メーカーにはチャンス。新薬メーカーは新薬開発の原資である収益確保に向けて、保有新薬の海外拡販を強化するとともに後発薬やワクチン製造へと事業領域の拡大を進めている。
商社
商社のビジネスモデルは時代とともに変化する。総合商社として出発間もない1960年代は商品の仕入れ調達に始まり商取引の円滑な推進を支援するフィービジネスだった。90年代後半にそのビジネスモデルは崩壊し“商社不要論”も出る中で、自己改革を果たし大きく変貌した。先行投資による市場の開発・開拓や産業育成・支援など、いまや総合商社は戦略的事業投資を行う投資ビジネス会社だ。専門商社は特定分野に専門特化しているだけに、保守的で変化の起こりにくい傾向にある。しかし、長期に及んだ国内経済の低迷や市場の成長鈍化による顧客企業の意識の変化が、専門商社に変革を要求している。
総合商社
先行投資と資源権益で各社の業績好調
資源バブルの終焉で新たな収益分野開拓へ
総合商社のビジネスモデルは、多様な分野で調達から製造、販売に至る川上から川下までを傘下に収め、事業投資・運営に関与し、商社本来のトレード機能を発揮しながら収益最大化を目指す「バリューチェーン」の構築。その投資事業の主力が今、鉱山・炭鉱・精錬所など資源分野から再生エネルギーや環境関連、農業や食料、医療など非資源分野へとシフトしつつある。さらに、成長可能性がありながら市場形成できない分野や地域での市場構築にも着手。この新たな展開に向けて各社、人材育成の強化に動いている。
専門商社
存在意義が問われている専門商社
組織立て直しと機能強化へ動き出す
総合商社が投資会社化する中で専門商社は、特定分野の商材でサプライヤー、メーカー、ユーザーを仲介し、専門知識と情報網や情報収集力を駆使して円滑な取引を行う商社本来のビジネスを展開。商流にあるニーズや情報から付加価値の高い企画、提案で顧客ビジネスを支援するのが専門商社たるゆえんだが、昨今の流通コストの圧縮や「商社飛ばし」の増加に各社、危機感を募らせる。食品商社はトップの業界再編に続き地方卸も再編へ。鉄鋼商社は規模拡大と海外展開の強化。エレクトロニクスは企業統合と合理化推進、医薬品卸はファイナンスや提案力の強化へと、生き残りをかけた動きが続いている。
金融
長い低迷から脱した金融業界。銀行は積極的な海外展開で海外融資案件の取り込みに精力的。円安・株高の進行で好調な株式市場を背景に業績を一気に回復した証券、資産運用で収益改善するものの本業で低迷する保険、海外進出企業の需要を追うリースなど、いずれも人口減少で内需の伸びが期待できない日本市場から、伸長著しい東南アジア、ASEAN新興国の市場を求め海外事業を加速化している。
銀行
海外大型案件の獲得に動くメガバンク
急成長のネット銀行は地銀に迫る勢い
デフレ脱却に向けた政府の金融政策では、大幅な金融緩和による国内融資の拡大が期待され、銀行業界には融資残高の増加が要請されている。全般的な民間設備投資意欲は未だ低調だが、各行は医療・福祉・ICT(情報通信技術)など成長分野への融資を開拓中。また、海外事業でも、日系進出企業の資金需要の取り込みや海外有力事業への大型融資など積極的な展開を見せる。世界金融危機以降、信用失墜の欧米大手に対して相対的に地位が向上している邦銀はグローバルプレイヤーとして再浮上を狙う好機にある。利便性と金利・手数料の優遇で拡大するネット銀行は、上位で地銀中位クラスの預金量を確保するまでに成長。ネット銀行間の格差も拡がりつつあり、サービス内容と競合との差別化が伸長の鍵になる。
証券
長い低迷の教訓は多角的収益基盤の強化
大手は需要高まるアドバイザリー事業に注力
政府の金融緩和策がもたらした株価上昇、相場回復で証券業界の業績は一気に回復。市場の好転に加えて、株式信用取引の規制緩和や少額投資非課税制度の導入の追い風。増加の見込まれる個人投資家をめぐって大手、中小、ネット系の三つ巴の争奪戦が始まっている。一方、大手は収益基盤の強化に向けてM&A助言業務や企業再生ビジネス、アジア市場での業務の拡大など精力的に展開中。個人投資家中心のネット証券は、外国株取扱銘柄の拡大や手数料割引、取引ツールの開発や拡充など、好機到来の顧客取り込みにしのぎを削る。
保険
損保は現地有力企業の買収で展開を加速化
生保は海外展開とともに新製品開発に注力
大型業界再編が完成し3メガ体制に集約された損保業界。株式相場の好転により、収益状況は改善しているものの、主力の自動車保険、火災保険は苦戦。各社は収益基盤の再構築に迫られており、海外事業の活発化と系列生保事業の拡大に力を入れる。生保は、老舗生保と損保系列生保、ネット系の新規生保、外資系が競合する激戦業界。超低金利の運用不振、人口減少の進展で、業界では「バンカシュランス」と言われる銀行窓販へとビジネスモデルの転換が進行中。この製販分離で各社、商品開発に注力し、受け取り保険金を介護・葬儀などのサービス受給に代替可能な保険など、規制緩和による多様な開発商品の登場が期待されている。
信販・クレジットカード・その他金融
高機能端末の新たな可能性に期待のカード業界
海外進出企業のニーズ取り込みに尽力するリース
クレジットカード業界は、ネット通販の活況と決済端末の多様化でショッピングカードが好調。業界は今、高機能端末とICT技術の進展がもたらす新たな可能性に期待を寄せており、決済インフラ基点のマーケティングや情報の受発信など、新サービス開発に力を入れる。消費者金融は業界を窮地に追い込んだ過払い請求が収束期に入り、市場は回復の兆し。ただ、総量規制による足かせで消費者向け無担保貸付の残高の伸びは期待できず、韓国、中国、ベトナムなどアジアでの事業展開に力を入れる。震災復興特需で業績回復のリース業界は、国内でエネルギーや医療、航空機分野で需要開拓に努める一方、海外移転の進む製造業のニーズに応えるべく、海外事業強化に動いている。
流通
景気見通しに明るさが見え始めているものの、原料高による電気・ガス、食品の値上げが相次ぎ、一般消費者の消費意欲は振るわない。2014年の消費税増税を前に生活防衛意識を強める消費者に対して、消耗戦の低価格競争を回避しながら収益確保と消費拡大を実現できるか、流通・小売り各社の戦略が問われている。
業界は増税後の消費低迷に備えて、規模の拡大を図る業界再編や新規事業開拓などの事業領域の拡大、海外展開の加速化など、生き残りをかけた取り組みが進行中だ。
専門店
消費不況を規模の拡大で生き残りを図る
市場ニーズに敏感な製造小売の業績好調
ネット通販とシビアな攻防戦にある家電量販業界は、M&Aによる規模の利益を追求し業界再編が常態化。ドラッグストアでは、医薬品のネット販売解禁で新たな競合が登場。薬価改定で経営厳しい調剤薬局の取り込みで対抗する。アパレル、紳士服、メガネ、インテリアでは、自社企画の製造小売り企業が優勢。機能性やデザインへのこだわり、機動的な販売戦略で業績を伸ばしている。
百貨店
景気回復基調で売上上昇の百貨店業界
顧客回復策で自治体、地元企業との異業種連携
長く低迷が続いた百貨店業界は不採算店の統廃合や物流改革、店舗改装等の起死回生策が功を奏し、12年度は業界全体で16年ぶりの売上上昇。2014年4月の消費増税を前にした高額商品の販売増が見込まれるが、増税後の反動への対処が課題。新装・リニューアルが続く大阪では、百貨店の大幅増床による既存商業施設との競争が激化しているが、商圏内の顧客の奪い合いから商圏外からの呼び込みやインバウンドの取り込みへと、自治体の観光振興策との連携、旅行業界の協力、地元企業との協働など地域活性化に連動させる取り組みも。
スーパー・コンビニ
郊外大型店より手近な小規模食品店がトレンド
スーパー・コンビニ問わず自社ブランド商品開発に注力
スーパー業界は、価格競争の激化による売上減少の中、経費削減と利益確保に奔走する。郊外型の総合スーパーの不採算店を閉鎖し、都心部に小型食品スーパーの新規出店するスクラップ&ビルドが進行。PB商品の開発に注力し、物流の効率化や共同仕入でコスト削減とグループ力強化に動いている。コンビニ業界は、国内オーバーストア状態と言われながらも新規出店は年2~3%の伸長で全体の業績は好調。だが、新規店舗や同業他社、他業態の競合との競争激化で既存店の状況は厳しさを増しており、収益確保に向けた新たな商材・サービス開発に余念がない。
通販
消費不況に喘ぐ小売業界で一人気を吐く通販
成長有望なネット通販市場に流通大手も追随
小売市場全体の低迷を尻目に快進撃の通販業界。2000年初頭に2兆円超の市場規模だった業界は2012年で5兆円を超え、未だ成長途上の小売市場全体の低迷を尻目に快進撃の通販業界。2000年初頭に2兆円超の市場規模だった業界は2012年で5兆円を超え、未だ成長途上の有望分野。通販の主力で成長著しいネット通販は上位2社が圧倒的な強みを見せているが、新規参入が相次いており、中小のグループ化の動きも活発。百貨店・スーパー・コンビニの流通大手は実店舗の強みを生かしたネット通販展開で売上を伸ばしている。低迷するカタログ通販やテレビ通販はネット利用を併用し、媒体強化で起死回生を図る。
情報・通信
製造業を中心に業績回復に向かいにつれて、IT投資も回復基調。海外生産移転が進む中、ICT(情報通信技術)業界のグローバル化も加速化。通信業界では海外企業の大型買収、異業種提携など事業基盤の強化や拡大が進む。インターネットの利用拡大に伴い蓄積している膨大なデータ群、いわゆる「ビッグデータ」がホットな話題の情報処理業界。インターネットサービス業界は端末やプラットフォームの多様化により活況が続いているが、GoogleやZynga、LINEといった外資系に勢いがあり、厳しい競争となっている。
情報処理サービス
企業のIT投資意欲の活発化で業績堅調
受託競争が激化するITアウトソーシング
2008年のリーマンショック、09年のギリシャ危機に端を発した欧州危機、11年の東日本大震災と立て続けの経済不安に企業のIT投資は先送りされてきたため、景気の上向き見通しとともに更新需要が拡大。本格化するクラウド関連投資や災害時対応の強化が活発だ。企業の情報システムの管理や運用のアウトソーシングも需要は拡大傾向にあり、大手から中堅、中小も含めて受託競争が激化している。今、業界では新たな市場構築に向けて、さまざまな形で収集された膨大なデータを有効活用するためのデータサイエンティストの獲得・育成に力を入れている。
インターネットサービス
業界の活況に参入増加でサービスは均一化
新サービスの開発力と差別化が成長への鍵
スマートフォンやタブレット端末の普及によるインターネットのアクセス数は飛躍に伸び、ネットサービス市場は一段の活況を呈している。景気の回復基調で企業の広告出稿は増加しており、ターゲティング広告で効果的な出稿が可能なネット広告は好調。端末の普及にネット選挙で追い風に乗っている。ポータルサイトやSNSなどネットサービスの主たる収益基盤は広告収入。広告拡大に向けて媒体価値の向上には積極的だ。ポータルサイトがSNSやモバイルコンテンツと提携し、ショッピングモールが海外展開を開始するなど、外資系も含めた競合との差別化が、激しい競争を生き抜く鍵となっている。
通信
次の成長の種を求めて海外展開が加速化
業界の次の要はクラウドサービスとM2M
大手3社のグローバル展開が加速化する通信業界。海外での企業買収や大規模データセンターの設立など動きは活発。成熟期に入る日本市場の中で、各社は次の成長にむけた布石へ。国内ではスマートフォン、タブレット端末の普及で加入者数は堅調な伸びだが、割引サービスの常態化で利用料単価は下落しており、各社の加入者争奪戦は熾烈化。各社の次のターゲットはクラウドサービスとM2M(Machine to Machine)と言われるネットワーク技術による機器間通信と自動制御のシステム。電気・ガスなどのエネルギー分野や防犯分野での拡大に注力中。
運輸・エネルギー
本格的な人口減少期に入り国内市場は長期縮小傾向で、製造業の海外生産も拡大の一途、国内貨物輸送量は減少傾向にあり、運輸・物流業界は収益基盤の内需依存型からの転換に迫られている。電気・ガス・石油などのエネルギー業界では、原発停止に伴う石油・ガスの需要増はあるものの、中長期の内需は減退。業界を問わず新興国でのインフラ整備事業への活動を強化している。
陸運
物流環境の変化に業界は事業構造の改革へ
競争激化の鉄道、異業種連携で可能性を探索中
企業の海外移転の進展により国内貨物量は減少傾向にあるが、宅配はネット通販の活況により拡大。宅配市場は大手2社の寡占状態だが、一方でコンビニ・スーパーの流通企業、通販企業の独自物流が台頭。貨物の主力であるビジネス分野は海外展開が進展中。増大する海外生産拠点の発着貨物の受注競争は、中国、欧米企業との競争も激しく、現地の物流体制の構築が急務。各社、陸・海・空運相互の連携やネットワーク強化、現地企業の買収など対応を急ぐ。
海運
世界的な需給緩和で厳しい海運各社
収益安定化に向けた事業シフトも
海運業界は、2008年以降の世界経済の下落とリーマンショック以前の大量発注による船舶余剰で運賃下落が続き、収益状況は厳しい。業界は減速航行の実施を取り決め、航路の合理化を実施して供給量を調整、ようやく需給緩和改善の兆しも現れはじめている。が、海運市況の早期の好転は見込めず、各社は運賃価格の変動しやすい定期・不定期船の運行事業から、長期契約で安定的なLNG船やタンカー輸送、海洋事業の強化へ。海外資源輸送の受注獲得に向けた拠点整備と営業体制の強化を進める。
航空
大手2強体制が復活し新たな展開
中・韓などアジアLCCとの競争激化
2012年日本発着の旅客数は前年度の反動もあり大きく伸展。経営破たんからの復活あるいは持ち株会社化による効率経営で体力増強した大手2社。燃料効率の高い新型機投入や欧米での新路線開設、共同運航の拡大により、収益源の中長距離国際線を強化。一方、傘下のLCCを通じて国内線や近距離国際線の需要に対応し、新幹線客の取り込みや、日本発着の海外LCCに対抗する。2015年度までに羽田・成田の首都圏空港の発着枠が拡大予定の中、韓国、中国などアジアLCCとの競争激化は必至。
鉄道
厳しさ増す運輸事業、鉄道周辺事業に注力
少子高齢化の中にこそあるニーズの掘り起し
鉄道は、長距離路線ではLCCの台頭する航空輸送や高速バス輸送との競争が激化。短距離路線では高齢化による駅利用者の減少が進むため、多角化戦略で収益確保に努める。駅構内や駅周辺の商店街、住宅整備の沿線開発事業や「Suica」「PASMO」といった電子マネー事業など事業領域は拡大しており、更に子育て支援、介護、生活関連サービスを駅基点で提供する沿線価値向上事業を新たに開始。縮小する市場の中でニッチな需要の開拓に取り組む。
電力
業界は増大する火力発電燃料費で財務悪化
電力会社の事業を根底から覆す発送電分離
福島の原発事故以来原発問題で揺れる電力業界。原発の停止による火力発電の燃料費が経営を圧迫、電力各社の財務は急速に悪化している。さらに、業界の差し迫った課題は電力小売り自由化と発送電分離の問題。電力小売り自由化は、再生可能エネルギーの全量買い取り制度で道を拓いているだけに、発送電分離の行方に注目が集まる。電力各社にとっては、電気事業法改正案の成否によって、会社分割を含む大規模構造改革を余儀なくされることになる。
ガス
原発停止でビジネスチャンス到来のガス業界
エネルギーの天然ガスシフトに業界挙げて注力
原発停止による電力不足で、LNG発電による電力供給や熱電供給システムよるエネルギー効率化を訴求して株をあげたガス業界。産業用の需要増加に伴い、各社の業績は好調。加えて、電力自由化に伴う電源入札制度の開始で、電力会社にガス火力発電を訴求する絶好のビジネスチャンスが到来。火力電源としての天然ガスのコストと安定供給を視野に入れて川上事業にも着手。ガス業界はこの好機を活かして日本のエネルギーシステムの「天然ガスシフト」への転換に邁進する。
石油
一段と進む内需の縮小に販売最前線を大規模再編
資源投資や非石油分野を成長事業と位置付け育成中
石油業界は、当面の電力不足懸念による燃料油の需要増を見込むが、すでに市場は縮小モードにあるだけに生産設備の統廃合や事業選別、人員削減が進行中。サービス・ステーション事業では大規模再編が行われ、業界の構造改革は川下分野から始まっている。各社は鉱山開発やLNGプロジェクトなどの資源投資、蓄電池や太陽光発電の再生可能エネルギーなどの非石油事業の強化など、事業構造の転換による総合エネルギー企業を目指して脱皮途上だ。
新エネルギー
全量固定買取制度スタートで一気に市場拡大
成長可能性に期待高く新規参入が相次ぐ
政府の再生可能エネルギー普及促進策による再生可能エネルギーの全量固定買い取り制度が2012年7月にスタートし、発電事業への新規参入が相次いでいる。太陽光発電では自治体や大手企業によるメガソーラーの建設が各地で進み、流通大手は店舗の屋上と店舗網を利用した大規模発電を開始。風力発電業界は長らく発電所の立地規制と事業化が課題だったが、ここにきて洋上風力発電が注目されている。商社、重電、重機、ゼネコンなどによる建設プロジェクトも登場し、今後に期待がかかる。地熱発電は2012年の設置基準緩和により、従来の小規模地域限定発電からいよいよ本格開発が始動する。
建設・不動産
景況感の好転と政府の経済政策の支援もあり、建設・不動産・住宅及び関連業界の業況は堅調。震災復興需要が本格化の建設、消費増税前の分譲需要増がオフィスビルの低調を補う不動産、政府の住宅取得促進策に消費増税前の駆け込み需要で活況の住宅など。現下はいずれも外部要因による状況なだけに、2015年の消費増税後に各業界は正念場を迎える。中長期の人口減少が続く日本市場で需要増大は見込めないため、各業界での温度差はあれどもアジアの成長市場への進出を積極的に展開している。
住宅
政府施策による効果で住宅業界は好調
消費増税後に備えて各社対応策も
低迷続く日本経済への刺激策として厚い優遇政策が奏功して好調な住宅業界。だがそれも消費増税まで。その後の厳しい状況が確実なだけに、各社、次を見据えて動き出している。すでに需要が顕在化しているリフォーム市場へのテコ入れ、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)や家庭用の熱電供給システムを取り入れたスマートハウスの提案などが活発化。海外の富裕層向けに注文住宅事業の営業も開始した。中堅以下では、企業規模と体力強化をめざした5社合併など、業界再編が進むもよう。
建設
震災関連工事で受注増だが労務費高騰が重石
大手は収益重視の選別受注、中堅以下では再編も
政府の国土強靭化施策により業界の建設工事受注額は増加傾向。景気の好転で民間工事の回復も期待されることから、工事需要は順調。だが一方で、人手不足による労賃高騰が続き、完成工事の採算悪化が深刻化。また復興需要逓減が始まる2015年以降、再び厳しい受注競争が予想され、大手は目下の有望市場である道路補修工事や防災性能検査のようなインフラ修理関連の工事獲得に力を入れる。中堅以下では、企業グループ化や提携、統合・合併の動きが水面下で活発化。
不動産
緩やかな回復基調の不動産
業界はリーマンショック以降の低迷から脱しつつある。一足早くにぎわいを見せた不動産投資(J-REIT)、次いでマンション販売も上向き始め、大手各社の業績は堅調。国内の成熟市場では、業界典型的なマンション、オフィスビル、商業施設の開発だけにとどまらない新たな事業開拓で顧客ニーズを取り込む。拡大する通販物流向けの大規模・高機能物流施設の賃貸、遊休地の有効利用にメガソーラー建設、需要増のサービス付き高齢者住宅の運営など。海外進出では中国・アジアでマンション分譲や住宅事業を展開中。
設備・建物管理
海外事業展開に積極的な空調設備
不動産管理は管理の幅を広げて総合管理へ
震災復興の需要に加え、民間投資意欲の回復基調で受注は伸びるものの、労務費の高騰が響き利益を圧迫している。空調や給排水の管工事分野では海外事業展開が進む。電気工事分野では、太陽光発電関連工事やモバイル関連工事が拡大。住宅設備業界は、住宅着工件数の順調な伸びを背景に業績は堅調。不動産管理業界は、ビル設備のメンテナンスから賃貸管理やテナント管理などの総合管理へ、更にはエネルギー効率化や防災提案など管理物件の価値向上に努めるプロパティマネジメントへと事業を拡大する企業も。
プラントエンジニアリング・環境エンジニアリング
新興国の社会インフラ事業のニーズが増大
常態化する韓国・欧州大手とのシビアな受注競争
新興国での需要増大から海外が活躍の場であるプラントエンジニアリング業界。韓国・欧州勢と熾烈な競争をしながら、資源開発や事業投資など上流分野への事業拡大にも努める。再生可能エネルギー、油田やガス田の開発投資などの新たな事業開拓に積極的。今、注目の環境エンジニアリング。廃棄物処理では、廃材や生ごみ、家畜糞尿を燃料にした発電装置やリサイクル設備が活発。世界的に需要増の水処理プラントは、水処理膜の化学メーカー、商社、環境プラントの企業連携で、グローバル水市場に挑戦する。
サービス
加速化する高齢社会に必需の介護・高齢者サービスは、景気動向に関わらずここ数年拡大傾向。一方、2008年以来の不況に見舞われてきたビジネスサービスやレジャー関連サービスも、ここにきてようやく光が差し始めた。政府のジャパン・ブランド戦略の後押しもあり、内需主導型と言われるサービス産業の海外展開がいよいよ本格化。
フードサービス
海外の日本食ブームを業界活性化につなげるべく
戦略的なフードサービスの海外進出が本格化
長引く不況で内食や中食の消費性向が定着し、競合他社とのせめぎ合いが激化する外食産業。経営手腕が企業の浮沈を左右し、国内の成熟市場でも店舗運営や業種開拓、新商品開発で伸長する企業はある。また、日本食のブランド化戦略の後押しを得て、東南アジアを中心とした海外進出も活発化している。
映画・レジャー・アミューズメント
自粛ムードから反転、活況のレジャー施設
ジャパン・ブランド戦略で勢いづく映画・アニメ
東日本大震災や原発事故による自粛ムードから、テーマパークや遊園地などのレジャー施設の業績は回復基調。アミューズメントは、海外市場で収益チャンスを求めるパチンコ、魅力あるソフト開発とスマホ対応が鍵となるゲーム、ターゲット層をシルバー世代に拡大するカラオケなど、閉塞状況の打開に向けて邁進する。映画は邦画話題作の好調、アニメの海外配信本格化、ジャパン・ブランド戦略による政府支援、と世界に向けて攻勢をかけるチャンスの時期だ。
マスコミ
業績回復に向けてデジタル化の推進に力を入れる
広告業界の将来の利益柱、活況のネット広告
コスト意識の徹底やグループ内改革と再編、デジタル化への注力など、業績回復に向けた取り組みが進む新聞、テレビ、出版業界。広告業界は減少一途のマスコミ4媒体からネット広告への注力が奏功し業績伸長。選挙運動のインターネット解禁や海外企業の買収など、広告各社は一段の飛躍に向けた攻勢をかける。
旅行・ホテル
日本の強み「おもてなし文化」を世界に訴求
官民協力で訪日外国人の拡大施策を展開
米国の景気回復や円安進行で訪日外国人への期待が高まり、旅行・ホテルの業績は回復基調を見せている。ホテル業界は相次ぐ外資系の進出で競争激化。日本的ホスピタリティの訴求で差別化を図る。旅行業ではネット販売が定着化し、アジアからの観光客取り込みに注力。国内のシルバー市場に向けた取り組みにも積極的だ。
教育
厳しい競争環境に合従連衡が常態化の学習塾
海外、幼児、社会人へと事業領域拡大の大手
少子化による縮小市場の国内では、厳しい競争環境にある学習塾。生き残りをかけたM&Aや資本提携など、合従連衡が常態化している。一方、新たな市場開拓に向けて大手は海外進出を活発化させている。また、幼児教育や社会人教育、生涯教育など教育を柱に事業の幅を広げ、国内教育市場の拡大も狙う。
コンサルティング
企業の海外進出の増加に伴い案件増加
特定業務の専門ファームの動向に注目
国内から海外へ、とりわけ成長著しい東南アジア市場へと日系企業の動きは活発化している。それに伴い、海外進出支援やグローバル対応の組織改革、人材育成などコンサルティング需要の高まりで、各ファームの案件は増加傾向。海外進出のリスクマネジメントやM&A、企業再生など、特定業務に特化した専門ファームの動向に注目したい。
人材サービス
国内大手はM&Aで総合人材会社へ
企業の海外進出に伴い海外事業も活発化
人材派遣、業務請負、人材紹介、求人広告など多様な人材関連サービスがある中で、サービスの多様化と総合化を目指しM&Aを展開する大手。景気の回復基調が見え始め、ユーザー企業からの業務委託要請や、海外進出先での労働力確保の依頼などが増加する中、新たな需要に対応すべく、各社、海外展開を開始している。
高齢者サービス
成長見込みの市場に異業種からの参入が活発
M&A活発な大手、介護保険外サービスも登場
増大する高齢者人口で介護や高齢者サービス業界は右肩上がりの成長、異業種からの参入も活発。しかし、介護報酬は3年毎の制度見直しで報酬額が変わるため、事業リスクは小さくない。大手は積極的なM&Aで多様な事業を傘下に取り込んでリスク分散を図り、その一方で、介護保険に寄らない高齢者サービスの動きも始まっている。