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業界の特性、現状・将来性、景気動向、国際性、社会性などの項目をチェックすることで、業界への理解を深めましょう!就活の際の業界研究に活かしましょう。

メーカー

製品(モノ)を製造する企業であることから、製造業やモノ作り企業と呼ばれる。属する企業の分類としては、原材料を生産する「素材メーカー」、原材料を使って製品を作る「加工組立メーカー」、原材料から最終製品まで自社で作る「自社生産加工メーカー」の3つに大別。メーカーに限らず、多くの企業はB to Bだが、B to Cが中核の企業もある。日本を支える基幹産業のひとつで、製品品質は世界をリードしている。近年は品質とともに、低コスト・長寿命といった付加価値も高めるため、各社ともAI(人工知能)、IoT※1、ロボティクス※2といった先進技術の導入をはじめ、スマートファクトリー化※3やDX※4への取り組みも推進。目標をいち早く達成するために、外部の企業や研究機関、大学と連携するオープンイノベーションや、業種・業界の枠を超えて協調するエコシステムの動きも活発になっている。また、社会課題の解決に貢献する企業として事業を継続していくことを見据えて、SDGsに取り組む企業が増えている。 

※1 Internet of Things:さまざまなモノがインターネットにつながり、情報連携すること。「モノのインターネット」と訳される
※2 もともとはロボットの設計・製作・制御を行うロボット工学を指す。近年はロボットに関連したさまざまな科学研究を総じて呼ぶ場合が増えている
※3 ドイツの国家プロジェクト「Industry 4.0」を具現化した先進工場のこと。AIやIoTなどを活用して設備同士や人間を高次元で連携させ、革新の工場生産を実現する
※4 Digital Transformation:デジタルテクノロジーを駆使して経営のあり方やビジネスプロセスを再構築することで、人とITの関係性を変革し、事業の範囲や業績の上げ方、顧客との関係や従業員の働き方などを、より良い方向へ変えること

電機・電池

社会の変化を捉えた新たな事業戦略で世界に欠かせない存在に

【基礎知識】
電機業界は、国内トップクラスの業績と事業規模・労働者数を誇る。業界を構成しているのは、多くが日本を代表する企業だ。事業領域は、身近な家電製品をはじめ、PC・スマートフォンなどの情報通信機器から、業務用・社会インフラ向け設備機器、発電機や工業施設用の大型電機機械といった重電製品など幅広い。複数の製品事業を展開している企業は「総合電機メーカー」、得意分野に専門特化した企業は「専門メーカー」と呼ばれる。電池業界は、乾電池などの1次電池、充電して繰り返し使える2次電池、水素などを触媒とする燃料電池の材料や製品を製造する企業で構成されている。

【展望】
長年にわたって日本企業が世界を席巻してきた中、近年はアジア系企業の存在感が増している。そこで日本企業は強みのある事業に社内リソースを集中させ、新たな事業戦略での成長をめざしている。今後の成長を支える事業カテゴリーとして注目されているのは、環境対応・SDGs関連だ。電池業界は、脱炭素化が世界中で進んでいることから、成長が加速している。中でもEV※1・HEV※2向けが急成長。2035年には2021年の約5倍、40兆円に迫る規模になるとの予測もあり、大手企業の協業による事業強化が進んでいる。

※1 Electric Vehicle:電気自動車。電気をエネルギー源として走行するため、脱炭素化に貢献する移動手段として普及が進んでいる
※2 Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド自動車。内燃機関(エンジン)とモーターなど2つ以上の動力源を組み合わせ、走行状況に応じて同時または個々に作動させて走行する自動車

半導体・半導体製造装置

デジタル機器の高い需要で市場はプラス成長

【基礎知識】
PCやスマートフォン、自動車、産業機器など、各種製品の中核を担っている電子部品が半導体だ。半導体業界を構成する主な企業は、半導体を作る「半導体メーカー」と、半導体を作るための装置を製造する「半導体製造装置メーカー」。海外に本社や中核となる研究開発機能を置く外資系の半導体メーカーも多く参入している。半導体メーカーは従来、開発から製造までトータルに行う企業が主流だったものの、近年は開発に特化したファブレス企業※1と、製造を担うファウンドリー企業※2の分業化が進んでいる。製品には幅広い用途に対応する汎用品と特定用途に特化した専用品があり、現状は高速演算処理を行うCPU※3やGPU※4、音や画像を検知するセンサー、データを保存するメモリなどの専用品が主流となっている。現在、業界をリードしている半導体メーカーは外資系企業が多いものの、製造装置では日本メーカーがグローバルで重要なポジションを確立している。また、業界をリードするファウンドリー企業の日本工場が誕生したほか、先端半導体を開発・量産する日本メーカーが官民合同で設立され、今後の動向が注目されている。

【展望】
長期的に、市場は成長を続けるとの予測が強い。その要因は、5G・6G※5やAI 、IoTなど、社会のデジタル化が世界中で進んでいるからだ。市場を牽引する分野としては、生成系AI※6、医療系、EV・HEV、自動車の自動運転支援、車載インフォテインメント(IVI)※7などがあげられている。こうした状況から半導体メーカー各社は、開発領域や製造能力など、それぞれの得意分野を強化。ファウンドリー企業、半導体製造装置メーカー、半導体材料メーカーも、製造キャパシティの増加を見据えた事業の強化を進めている。

※1 製造部門(ファブ)を持たず、企画・開発・設計のみを行い、生産は外部委託する企業
※2 製造施設を持ち、ファブレス企業からの委託を受けて半導体を製造する生産専門企業
※3 Central Processing Unit:エレクトロニクス製品の処理を中心となって行う装置。中央演算処理装置
※4 Graphics Processing Unit:リアルタイム画像処理に特化した演算装置。AI 開発で重要な役割を担っている。CPU に代わって高速演算処理を行うために使用されることもある
※5 5th Generation/6thGeneration:5Gは普及が進んでいる第5世代移動通信システム。「高速・大容量」「低遅延」「多数端末接続」の3 つが特徴。6Gは5Gの性能をさらに進化させた第6世代の移動通信システム
※6 会話や画像、動画、音楽などの新しいコンテンツやアイデアを作成できるAIの一種
※7 In-Vehicle Infotainment:インフォメーションとエンターテインメントを幅広く提供する車載装備。ナビゲーションや音声通信、インターネット接続のほか、音楽や映像の再生などが可能

電子部品

世界で進むデジタル化が追い風となりあらゆる面で拡大傾向が見込まれる

【基礎知識】
スマートフォン、自動車、産業機器など、あらゆるエレクトロニクス製品が正しく機能するために使用されている電子部品。コンデンサ※1や抵抗器をはじめとする受動部品、スイッチやタッチパネルなどの接続部品、モーターやイヤホンといった変換部品、電気エネルギーや電気信号を伝送する電線・ケーブルなどがあり、その開発・製造を行っているのが、この業界の企業だ。ビジネスモデルがB to Bであることから一般の認知度は低いが、高機能・高付加価値部品により、グローバルで高いシェアを持つ日本企業が多い。

【展望】
世界中の景気が回復に向かい、デジタル化の促進で、需要は増加している。市場を牽引しているのは、IoTをはじめ、5G・6Gを見据えた通信基地局やデータセンター※2の通信高速化のほか、工場で導入が進むロボティクスやDXなど。さらに自動車業界が、脱炭素化に向けてEVとHEVの生産を加速させるとともに、自動運転車やコネクテッドカー※3の開発も推進していることから需要はさらに拡大し、業界の大きな追い風になっている。このように業界は、あらゆる面でプラス要因が顕著であり、市場規模も成長度も拡大を続けると見込まれている。

※1 電気を蓄えたり放出したりする電子部品
※2 各種のコンピュータやネットワーク機器を設置し、安定した運用サービスを提供する施設。インターネットサービスに特化した施設はIDC(Internet Data Center)と呼ばれる
※3 ネットワークに接続された自動車のこと。車両の状態や周囲の状況など、さまざまなデータをセンサーで取得し、ネットワーク経由でセンターへ送信。各車から送られてくるビッグデータを分析することで、新たな価値を生み出すことが期待されている

精密機器

新たな成長に向け、蓄積した独自技術を医療や福祉、DX などへ応用

【基礎知識】
精密機器とは、高性能な部品と高度なソフトウェアや電子制御技術により、緻密に動作する製品のこと。業界を構成するのは、OA機器(コピー・プリンター・複合機)、時計、分析・測定・制御機器、医療機器、カメラなどの開発・製造を手掛ける企業だ。日本企業はいずれの分野でも世界をリードする技術を蓄積し、業界の発展を支えてきた。ビジネスモデルはB to Bが中心だが、B to C、あるいはB to BとB to Cの両方を行っている企業もある。

【展望】
日本が得意とする精密機器分野は、世界を大きくリードしている。こうしたグローバルの優位性から、業界各社にとって海外は重要な市場であり、特に新興国向けの事業戦略が強化されると予想されている。OA機器メーカーでは、蓄積技術を顧客のDX推進に応用する事業が立ち上がり、新たな成長戦略として注目されている。時計はスマートウオッチの登場を契機にデザイン性の向上や多機能化など、新たな付加価値の創出に向けた取り組みが活発化している。また、医療従事者不足が世界中で懸念されていることから、病状診断や遠隔手術といった業務の効率化を実現する医療機器の開発に対する注目度が高まっている。医療行為はあらゆる面で正確性と簡素化の両立が求められることから、分析・測定・制御や画像・映像など、各種の精密機器で培われた高度な技術を、各医療機器に応用することが期待されている。このほか、いち早く高齢化社会を迎えた日本では、介護ロボットや介護サポート機器の実用化も加速傾向にある。

工作機械

成長の鍵は、自動化・効率化・品質向上
SDGs への貢献にも高まる期待

【基礎知識】
スマートフォンから航空機まで、あらゆる工業製品を作るために、工作機械は使用される。「機械を作る機械」であることから、「マザーマシン」とも呼ばれる。属する企業には、素材加工を行う工作機械の開発・製造をトータルに行う「工作機械メーカー」をはじめ、工作機械に取り付けて切削加工に用いられる工具を手掛ける「切削工具メーカー」、加工作業などを自動化する「産業用ロボットメーカー」などがある。日本は世界有数の工作機械大国であり、日本の大手メーカーが業界をリードしているほか、中堅・中小規模でも高度な技術を持ち、グローバルで高い存在感を示している企業が多い。

【展望】
先進国では人口の減少や人件費の高騰、新興国では高品質と低コストの両立といった課題を解決するため、あらゆる機械工場で自動生産システムやロボット製造ラインなどが普及すると考えられている。そのため、工作機械にはAIやIoTといった先進技術の組み込みが進み、自動化・効率化・品質向上に貢献することで、堅実な成長が予測されている。そしてもうひとつ目を向けられているのが、環境問題への対応だ。マザーマシンとして機械作りの根幹を担っていることから、脱炭素化や省エネに取り組むことで、SDGsに貢献することにも大きな期待が寄せられている。

建設機械・産業用一般機械

世界で高く評価されている機械性能
最新技術の導入で引き続き業界を牽引

【基礎知識】
建設機械は、トラクター、ブルドーザー、油圧ショベル、クレーンなど、暮らしと密接する建物やインフラの建設整備で使用される機械。災害復旧でも、重要な役割を担う。産業用一般機械は、さまざまな産業の生産現場に設置され、人間の作業を補助・代行して効率的な製造に貢献する。代表例としては、FA※1機器や産業用ロボットなどがある。電動工具は、電気を動力源に切削や研磨などの作業を行う工具類のこと。コンクリートや金属などの加工には不可欠な機械製品だ。日本メーカーの製品は、いずれも性能が世界で高く評価されており、各社とも積極的にグローバルビジネスを展開。幅広い機械製品領域で、上位のシェアを獲得している。

【展望】
市場は、引き続き成長が続くと予測されている。建設機械市場は、国内で公共投資と民間設備投資が堅調に推移し、海外では北米と新興国での需要が旺盛なことが要因。産業用一般機械は、製造の効率化ニーズが今後も高まり続けると考えられるため。電動工具も、建設市場や各種製造産業から寄せられる需要の増加傾向が続いているからだ。こうした成長要因を確実にする鍵として各業界に求められているのが、AI、IoT、ロボティクス、バッテリーなどの最新技術を採用して、自動化や作業効率の向上といった機能を強化すること。GX※2やグリーンテクノロジー※3による脱炭素化・省エネといった環境対応も、重要な機能として注目されている。海外シェアをさらに拡大するため、海外メーカーのM&A※4を推進する動きも、建設機械メーカーを中心に増加している。

※1 Factory Automation:工場における生産工程の自動化を図るシステムのこと
※2 Green Transformation:化石燃料を太陽光や風力などCO2を排出しないクリーンエネルギーに転換して脱炭素化社会を構築しようという取り組み
※3 人為的な活動で生じる環境問題を解決・緩和するための技術。再生可能エネルギーなどの地球環境対策技術、エネルギー有効利用技術、環境汚染物質の排出抑制技術、水質浄化技術など広範囲に及ぶ
※4 Mergers and Acquisitions:企業の合併や買収の総称

造船・重機・鉄道車両・航空宇宙

国内外で社会インフラを支える製品を提供
脱炭素化の主導で予想を超える成長を

【基礎知識】
鉄道車両業界は、人やモノの輸送に使用される車両に加えて、信号・制御機器・レールなどの周辺機材メーカーで構成され、鉄道会社の要望にオーダーメイドで対応するビジネスを手掛けている。航空宇宙業界では、主要な航空機の装置や部品の多くを日本メーカーが提供。宇宙開発分野では、ロケットや宇宙ステーションのほか、調査装置などを、大手企業からスタートアップ※1まで、各種のシステムや製品を提供している。造船業界は、各種の船舶を製造するメーカーから成る。日本の国際貨物輸送は海上輸送がほとんどを占めていることから日本を支える重要な産業のひとつであり、グローバルでもトップ3のポジションを築いている。重機業界は、重工業で使用される機械の中でも、発電設備や化学機械といった、特に大型の機械を製造する業界である。

【展望】
どの業界も社会インフラとしての性格が強く、ビジネスをグローバルに展開していることから、堅調な成長が見込まれている。その中で、大きな成長を導く可能性があると期待されている取り組みが、脱炭素化への対応だ。日本メーカーの多くは、世界トップクラスの環境対応技術を蓄積している。その活用でCO2排出量ゼロに貢献する機械の開発・提供により、各業界のグローバルな需要の獲得が期待されている。航空宇宙業界は、これから飛躍的な成長が見込まれる。「宇宙開発元年」と位置づけられた2024年には、ピンポイント月面着陸に玩具開発で培った技術を活かすなど、ユニークな発想に基づくさまざまな取り組みが着実に成果をあげた。今後、夢の世界を現実へ導く数多い製品の提供に、大きな期待が膨らんでいる。

※1 創業して間もない企業の総称

自動車・二輪・タイヤ

新たな社会環境の実現に向けて従来の枠組みを超えたソリューションを追求

【基礎知識】
自動車業界は、「完成車メーカー」のほか、数万点以上と言われる1台の自動車生産に必要な部品類を提供する「自動車部品関連メーカー」で構成されており、日本を支える重要な基幹産業だ。日本の完成車メーカーは世界でも存在感が高く、販売台数の世界トップ10には常に数社の名前が並んでいる。自動車部品関連メーカーは従来、特定の完成車メーカーだけとビジネスを行う系列取引が主流だったが、近年は複数の完成車メーカーと取引するメーカーが増加。グローバルなビジネス規模も拡大している。二輪業界も、業界構造は自動車と同様。世界レベルのシェアとブランド力は自動車よりも高い傾向にあり、需要をうまく捉えることで成長を続けている。タイヤ業界を構成するのは、乗用車や二輪車などの車両に車輪を供給しているメーカー。車両にはなくてはならない存在であることから、安定した成長を確保。その中で日本メーカーは、業績と新機能開発の両面で世界をリードしている。

【展望】
CASE※1やSDV※2など、変革期の真っ只中を走る自動車業界。その中で予想以上に加速しているのが、地球環境保護に貢献するEV・HEV対応だ。自動運転も渋滞緩和で環境改善に貢献する上、交通事故の防止や高齢者の移動手段といった価値を創造することから、技術開発が進んでいる。こうしたソリューションの確立には、従来の枠組みを超えた技術が必要であるため、エレクトロニクス関連企業やICTといった異業種との協業が広がっている。また、これからの社会にフィットする新しい乗り物の開発も、重要な成長要因と考えられている。二輪車の需要は、世界で拡大傾向にある。新興国では暮らしに密着した移動手段として普及が高まっており、先進国では嗜好性が強い大型車やスポーツモデルのニーズが増加。自動車と同様に電動化も進行しており、こうした多様な需要への対応力が成長をリードすると予測されている。タイヤも、自動車と二輪車の市場動向から、市場は拡大している。その中で成長する力になるのは、環境性能や乗り心地といった付加価値を創造する技術力と見られている。

※1 Connected(接続性)、Autonomous(自動運転)、Shared(共有)、Electric(電動化)という自動車業界に訪れている変革を象徴するキーワードの頭文字を並べた造語 
※2 Software Defined Vehicle:ソフトウェアで機能がアップデートされることを前提に設計・開発された自動車のこと。購入後も無線によるアップデートで安全性や快適性など、常に新しい機能やサービスが提供される。「ソフトウェア定義車両」と訳される

鉄鋼・非鉄金属・セラミックス・セメント・紙・パルプ

グローバル社会の動向を捉えた的確な対応が成長要因に

【基礎知識】
鉄鋼業界は、日本の根幹を担っている。製造された鉄は、大型の機械から家電、さらにはビルや道路など、さまざまなところで活用され、日本の社会と経済を支えている。業界を構成する企業は、高炉を用いて製品を作る「高炉メーカー」、原料を電気炉で溶かして鋼材を生産する「電炉メーカー」、鉄にレアメタルなどを加えた特殊な鋼材を製造する「特殊鋼メーカー」に分類される。日本製品の品質は極めて高く、多くが輸出されている。非鉄金属業界は、銅やアルミといった鉄以外の金属を扱う。鉱石を採掘する「上流」、鉱石を地銀に製錬する「中流」、地銀を加工する「下流」という3つのビジネスモデルがある。セラミックス業界は、無機物を加熱処理し、誘電性や絶縁性、軽量化などに優れた高機能材料を製造している業界。金属材料、有機材料と並ぶ重要な素材で、幅広い業界で活用されている。

【展望】
鉄鋼市場は、世界の人口増加と経済成長を背景に、拡大すると予測されている。そのため、世界の需要を的確に捉えるビジネス戦略が、成長の重要な力になってくる。その要因のひとつになるのが、脱炭素化への対応だ。製造工程で排出されるCO2を抑える技術の構築が、ビジネスを加速すると考えられている。非鉄金属も、世界で広がるインフラ整備や自動車などの成長市場を支える中核製品に不可欠なことから、グローバルビジネスの重要度が向上。脱炭素化やエコロジーに貢献する製品の研究開発が、成長の重要な鍵を握っている。セラミックスは、金属やプラスチックの代替品として需要が拡大。航空機、自動車、医療機器、家電といった市場で、さらなる成長が見込まれている。セメントの成長要因は、新興国の住宅整備と高速鉄道や空港などの大規模プロジェクトだ。こうした事業は官公庁が主体のため、グリーン技術で生産された環境にやさしいセメントへの注目度が高まっている。紙・パルプは、ティッシュや紙おむつなど衛生用品の需要が急上昇。さらに、脱プラスチックの本格化でストローなどを紙製に変更する動きが加速し、ECの拡大でダンボール需要もグローバルで伸びている。こうした時代のニーズに対応できる体制が、成長要因として注目されている。

化学・繊維

原料の転換や環境対応、製品の高機能化など社会動向に対応した取り組みを強化

【基礎知識】
化学業界は、石油や天然ガスなどの原材料に化学反応を加え、樹脂、化学繊維、電子材料、薬品、塗料などを製造する企業で構成されている。業界を構成するのは、「総合化学メーカー」と「専門化学メーカー」。専門化学メーカーは、原材料から基礎化学品を作る「基礎化学品メーカー」、基礎化学品を製品の素材となる誘導品にする「中間製品メーカー」、誘導品から最終製品を生産する「化学製品メーカー」に大別でき、総合化学メーカーはこうした領域のすべてに取り組む。繊維業界を構成するのは、天然繊維や化学繊維の製糸、紡績、染色、縫製などに携わる企業。近年は高機能化の研究開発が進んだことにより、衣料品に加えて、住宅用断熱材やスポーツ器具、航空機、自動車、風力発電翼といった工業製品にまで使用領域が広がっている。

【展望】
化学業界各社が見据えるポイントは、大きく2つ。ひとつは、脱石油依存だ。石油は国際情勢の影響を受けやすいため、安定した原料獲得に向けた転換策への取り組みが進んでいる。もうひとつは、脱炭素化。化学製品は生産時のCO2排出量が多いため、この実現は急務だ。脱炭素化が実現すれば、電子材料や医薬品向けの需要が高まっていることから、好業績を誘引するとの見方が強い。繊維製品の需要は、新興国で拡大している。日本の高機能繊維は世界で高く評価されていることから、輸出の拡大が成長を誘引する可能性は高い。国内では、工業製品向け高機能繊維の需要が増加している。そのため、各領域のニーズにマッチする高機能化を成功させることが、成長の鍵になっている。

化粧品・生活用品

毎日の心地よさ向上など、細かなニーズへの対応が成長を加速

【基礎知識】
化粧品業界を構成するのは、製品の開発、製造、販売などを手掛ける企業。業態は、開発から販売までの全工程に携わる大手メーカーからある工程に特化したメーカーまで幅広い。製品ジャンルも多彩で、複数ジャンルに参入するメーカーから、特定のジャンルに特化したメーカーまでさまざま。企業規模を問わず、ブランド力を持つメーカーが多い。近年は、異業種から新規参入するケースも増えている。生活用品業界は、トイレタリーとも呼ばれる。シャンプー、歯磨き用品、生理用品、紙おむつなど、日常生活に必要な製品を提供する企業で構成されている。どちらの業界も一般消費者との距離が近く、知名度の高い企業が多い。

【展望】
化粧品は、ここ数年を支えてきたケア用品に加え、メイク用品の需要回復で市場は成長傾向にある。新たな成長を牽引するのは、新ブランド戦略だ。拡大傾向にある男性用やZ世代向け、海外の各市場の要求に対応する化粧品を開発し、新たなコンセプトで提供することが市場を広げ、成長を加速すると予測されている。生活用品の多くは生活必需品のため需要は揺るがない。そこで注目されているのが、「時短と簡便」への貢献だ。衣料用洗剤では洗浄力強化をはじめ、速乾性や計量不要の手軽さ、食器用洗剤では拭き取り時間の短縮といった付加価値が需要を拡大。中長期では、こうした製品の海外展開が市場を拡大すると見られている。

飲料・食品

培ってきた新しい味や機能の提案力が、今後のマーケット拡大をリード

【基礎知識】
飲料業界に属するのは、飲料の製造・販売に関わる企業。飲料は清涼飲料・酒類に分類され、日本企業を中心に外資系企業もビッグビジネスを展開している。食品業界は、とても多くの企業で構成されている。代表的な製品領域としては、調味料・冷凍食品をはじめ、食肉加工、即席めん、菓子・牛乳などがある。

【展望】
この2業界の特徴は、新しい味や機能の開発・提案でマーケットを拡大してきたことだ。この取り組みが、今後の成長も勢いづけると考えられている。飲料で注目されているのは、低カロリーや健康の保持・増進のための機能性飲料など、健康志向に対応した飲料ラインナップの多様化だ。酒類では酒税改正と外食需要の回復で、ビール需要を獲得する新製品開発が重要なテーマに。ウイスキーは、評価の高い海外での戦略強化が注目されている。食品業界も、今後の成長を担うのは海外市場。経済成長が著しいASEANで日本製のインスタントラーメンや乳酸菌飲料などが市場を獲得。更なる強化のため外国企業とのM&Aも増加している。国内では、変化する社会情勢への対応が重要。健康志向に応える機能性食品をはじめ、高齢者の単身世帯や共働き世帯向けに投入した調理しやすい商品などが、新市場を創出している。

医薬品

健康への貢献という重要な役割への期待に応えるため、創薬研究のDXを推進

【基礎知識】
医薬品業界は、医薬品の研究開発から効果の確認、販売までを手掛ける企業で構成されている。医薬品は、処方箋が必要な「医療用医薬品」と、ドラッグストアなどで購入できる「OTC医薬品※1」に大別され、市場売上のほとんどは医療用医薬品が占めている。医療用医薬品には「新薬」と、特許が切れた新薬の成分を低価格で提供する「ジェネリック医薬品」があり、新薬を開発する企業は「先発医薬品メーカー」、ジェネリック医薬品を製造するのは「後発医薬品メーカー」と呼ばれる。また、OTC医薬品メーカーは「一般医薬品メーカー」とも言われる。

【展望】
新薬は製品開発に10年以上の年月と数百億円の費用がかかる。ジェネリック医薬品でも約5年の開発期間と数億円の開発費用が必要と言われ、有望な開発候補品の権利と資金の獲得に向けM&Aが繰り返されている。また、近年推進されているのが、生成系AI・画像解析といった先進技術やRWD※2などを活用する創薬研究のDXだ。

※1 Over The Counter:一般医薬品(漢方薬も含む)。ドラッグストアなどでカウンター越しに販売されることから、こう呼ばれている
※2 Real World Data:電子カルテ、保険者データ、レセプト(医療費の明細書)など、臨床現場で行われる診療行為に基づく情報を集めた医療ビッグデータ

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商社

ビジネスコーディネーターとして、トレーディングと事業投資を展開しているのが、商社だ。トレーディングは、仲介業者となって買い手と売り手を結び付けるビジネス。たとえば、海外企業が開発した原料を国内企業へ提供したり、国内企業が製造した完成品を海外の小売業に販売するといった業務を担当し、関わった企業すべてのビジネスを成功に導く。事業投資では、資源を必要とする企業や発展分野に出資や融資などを行う。金銭はもちろん、人材・情報・経営ノウハウなどの経営資源を投入することも多く、投資によって出資先の価値向上を図り、リターンを得るというものだ。商材は、「ラーメンからロケットまで」と表現されるように、多種多様なものを国内外問わず扱う。この幅広い商材をトータルに扱う「総合商社」と、特定の分野に特化した「専門商社」がある。

総合商社

脱炭素やSDGs・ESG※1など時流へ常に対応した事業展開で成長

【基礎知識】
幅広い商材を扱うことから、ビジネスフィールドはグローバルに広がっており、業界を構成するのは、世界各地に拠点を持つ大企業がほとんどだ。トレーディングも商材の単なる仲介に留まらず、流通経路の新規構築や仕入量・価格の最適化まで担うことも。豊富な資金力を活かしてインフラ整備など、国内外の大規模プロジェクトをトータルに請け負うこともある。こうした業態は海外にないため、「Sogo-Shosha」は世界の共通語になっている。ビジネスに取り組む姿勢にも特徴があり、常に時代の流れを読み取り、有望な事業へ柔軟に軸足を移すことで成長を維持。こうした取り組みにより、得意分野を持つことで独自性を打ち出し、企業価値を高めている。

【展望】
扱う商材は資源と非資源に大別される。従来は、鉱山事業や火力発電事業といった資源分野を中心とすることが多かった。最近は世界の時流を考慮し、脱炭素やSDGs・ESG経営につながる非資源への取り組みが活発になっている。注目される動きとしては、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーや、水素などを利用した新エネルギー領域への参画。高齢化を背景としたヘルスケア分野も、強化の傾向にある。こうした社会環境の変化を的確に捉えたビジネスモデルの策定に向け、生成系AIやDXの導入・活用環境の整備も、今後の成長を担う鍵として存在感を高めている。

※1 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの。企業の経営や成長には、この3つの観点での配慮が必要という考え方

専門商社

新たな成長の鍵を握るのは蓄積した知見と独自ノウハウの活かし方

【基礎知識】
業界を構成するのは、特定の分野に特化した知識やノウハウを強みに事業を展開している企業だ。分類の種類としては、繊維系・医療品系・食品系・物流系といった手掛ける製品や事業の内容を反映するもののほか、特定メーカーの製品を扱うメーカー系、総合商社の特定分野に関連したビジネスを行う総合商社系、特定の関係先を持たず自由に事業を展開する独立系という分け方もある。展開事業としては、トレーディングを中核とする企業が多い。

【展望】
市場の安定感は高い。社会動向の影響を的確に捉えてトレーディングを成功へ導くには、専門的な知識や経験が物を言うため、新規参入は難しいのだ。そのため、今後の成長についても重要な鍵を握っているのは、蓄積した知見と独自ノウハウの活かし方である。大きな流れとして注目されているのは、海外進出だ。得意分野の事業が未開拓の国や地域で専門性を発揮し、ビジネスを創出する取り組みが進められている。また、業界のエキスパートとして、コンサルティングや商品開発まで手掛ける動きも活発化している。医薬系の専門商社が調剤薬局の運営を支援する、食品系の専門商社がメーカーの新商品企画を支援するなど、得意分野を活かした事業の多角化に取り組む専門商社も増えている。

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金融

金融は、“金” 銭の“融” 通に取り組んでいる業界。属しているのは、お金を持っている貸し手がお金を必要とする借り手に資金を融通する金融機関だ。業態の違いから、銀行、証券、保険、信販などに分類されるが、基本の事業構造は同じ。その流れはまず、貸し手の企業や個人などに金融商品を提供して、お金を受け取る。そのお金を融通してほしい借り手の企業や個人などに貸し出し、返済時に貸した金額に利子を上乗せした額を受け取る。この利子が、金融機関の主な収益になるのだ。お金の流れが止まると、企業や個人、さらには自治体や国も、活動停止に陥ってしまう。社会の健全な活動に向け、お金という血液を送り込む心臓の役割を担っているのが、この業界である。

銀行

金利政策の転換期を迎えて新たな顧客接点の構築が重要な要素に

【基礎知識】
業界を構成するのは、預金・貸付・為替の3業務に携わる金融機関だ。預金は、顧客からお金を預かり、口座を管理する業務。貸付は、預かったお金を企業や個人に融資する業務。為替は、振り込みや送金を行う業務である。普通銀行と呼ばれるのは、「都市銀行」と「地方銀行」。都市銀行は日本全国に拠点を持つ銀行で、メガバンクと呼ばれる上位3行は海外にも拠点を設置し、グローバルでも存在感のあるビッグビジネスを展開している。このほかには、銀行業務に加えて顧客の財産を管理・運用する信託業務も行う「信託銀行」や顧客に向けた投資の助言や資産の運用・管理を代行する「投信・コンサル・資産管理」をはじめ、新業態の銀行としてインターネットのみでサービスを提供する「ネット銀行」や店舗などにATMを設置して主に決済サービスを提供する「流通系銀行」。さらには、民間では対応が困難な融資や投資を行う「政府系金融機関」、地域や組合員などの相互扶助を目的に設立された中央金庫、労働金庫、協同組合、信用金庫といった「協同組織金融機関」などがある。

【展望】
長らく続いた低金利政策が解除され、戦略の転換に焦点が向けられている。金利が上昇すれば、預金・融資の獲得が収益源としての存在感を高めるため、新たな社会環境に合わせて顧客接点を強化する取り組みが加速しているのだ。スマートフォンアプリの普及をはじめ、新たな人流※1に対応した店舗・ATMの再配置はもちろん、顧客ニーズにフィットする魅力的な商品・サービス提供も重要度を増している。そこで、AI、ビッグデータ解析※2、フィンテック※3などを積極的に活用し、窓口で提供するサービス品質の向上が進められている。顧客企業に向けては、新たな社会環境に最適化した経営を推進するビジネスパートナーとしてのポジションを強化。GXやDXへの対応、あるいはM&Aの実現に向けて、金融面はもちろん、ソリューション提案を含むサポート体制の整備が進んでいる。こうした社会の変化に対応した新たな価値提供が、成長の条件になると予測されている。

※1 ある場所から別の場所へ移動する人の流れ 
※2 大量のデータを収集・分析してひとつの方向性を見出す手法 
※3 ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を合わせた造語。ICT(情報通信技術)を駆使して革新的な金融商品やサービスを生み出す技術や取り組み

証券

市場の拡大傾向を捉え、ICT 連携などで投資意欲をサポートする取り組みを推進

【基礎知識】
証券業界は、株式や債券(国債や社債など)といった有価証券の売買を手掛ける企業で構成されている。属する企業は、実店舗を持つ「店舗型」と、インターネットでサービスを行う「ネット系」に大別できる。さらに店舗型には、他社と資本関係のない「独立系」と、外国法人の日本拠点である「外資系」などがある。店舗型の特徴は、顧客との対面で細かなサポートを行うこと。ネット系は、店舗の維持コストが不要なことから、手数料を安く設定できるところが強みだ。業務範囲は共通しており、有価証券の売買仲介で手数料を得るブローカー業務、自己資金で有価証券を売買するディーラー業務、有価証券の新規発行を引き受けて販売するアンダーライティング業務、委託を受けて有価証券を売るセリング業務と、M&Aをサポートするアドバイザリー業務を行っている。

【展望】
2024年に、新NISA※1がスタート。iDeCo※2との相乗効果で、若い世代を中心に投資意欲が向上。さらに、日経平均株価※3が史上最高値を更新したことから、市場は拡大傾向にある。こうした中で成長を続けているのが、ネット系だ。手数料の安さや取引の利便性に加え、自分のスタイルにあった投資をAIが提案してくれるロボアドバイザーのサービスも成長に拍車をかけている。店舗型が成長に向けて強化しているのは、コンサルティング業務。スペシャリストの助言を対話型で直接もらえるスタイルは、富裕層を中心に利用者が増えている。注目されるのは、このアドバイスに際しても、状況分析や投資判断の支援にAIやビッグデータ解析などの先進技術が活用されていること。今後の成長を確実にするため、先進技術に強みを持つ異業種との連携が重要になると考えられている。

※1 NISA(Nippon Individual Savings Account)は、毎年120万円の範囲内で購入した金融商品から得られる利益が非課税になる制度。旧制度より投資枠を拡大し、非課税期間も無期限にするなど、使い勝手を高めた新制度が新NISA
※2 individual-type Defined Contribution pension plan:多くの国民が、より豊かな老後の生活を送るための資産形成方法のひとつとして実施されている私的年金制度。個人型確定拠出年金
※3 日本経済新聞社が選んだ日本の産業を支える大手企業225社の平均株価。日本経済と株式市場全体の大まかな動向を把握する参考値。2024年3月4日に史上初の4万円台を記録した

保険

今後の成長要因は、社会動向に対応した商品開発、先進技術の活用、そして海外戦略

【基礎知識】
業界を構成するのは、「もしも」に備えたい人から保険料を受け取り、所定の事態が発生したときに保険金を支払うサービスを提供する企業。主に生命保険会社(生保)と損害保険会社(損保)だ。生保が扱うのは、終身保険や定期保険といった「ヒト保険」。損保は、火災保険や自動車保険などの「モノ保険」を扱う。このほか、第三分野と呼ばれるガン保険や介護保険などは、双方とも扱うことができる。保険会社は、受け取った保険料を金融市場で運用して収益を得ている。また、業界には複数の保険会社と代理店契約を結び、顧客との契約業務を代行する保険代理店もある。販売方法は、外交員による訪問販売のほか、最近は店舗での販売、ネットや電話による通信販売が目立っている。

【展望】
商品開発で注力されているのは、社会動向の反映だ。生保では、長寿化に対応した商品の充実。損保では、デジタル端末向けやサイバーリスク関連、さらに中長期では自動車の電動化や自動運転への対応が注目されている。業界共通の動きとしては、インシュアテック※1の導入が目立っている。生成系AIやビックデータ解析などを活用し、保障内容と収益性を最適化した新商品開発をはじめ、保険加入の適正審査、顧客への24時間対応を実現している。海外進出も、新規市場の獲得に向けて増加。新興国では生保・損保とも今後の普及が見込まれることから、現地ニーズにマッチした商品開発や現地法人との業務提携・M&Aなどが進められている。今後の成長は、こうした積極策の成果が貢献すると予測されている。

※1 保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語

信販・クレジットカード・その他金融

貸金業務に特化したノンバンク市場注目されるキャッシュレスやポイ活※1への対応

【基礎知識】
「信販・クレジットカード会社」は、消費者が商品やサービスを購入する代金を立て替え、その手数料で利益を得ている。その他、金融業界にはさまざまな企業や業態がある。「消費者金融会社」は、個人の生活資金や自営業者の事業資金など、小口融資を無担保で行っている。「電子マネー」は、小売流通企業や鉄道会社などが展開しているプリペイド方式の電子決済手段。利用者は電子データのやり取りにより物品購入やサービスを受けられる。「リース会社」は設備を調達する際に購入を代行し貸し出す。利用者は多額の資金を準備せずに設備導入できることがメリットだ。「ファクタリング会社」は、事業者が保有する売掛債権などを、期日前に手数料を徴収して買い取るサービスを提供。売掛金の支払い期日以前に資金調達できるため資金繰りが改善でき、借り入れとは異なり負債が増えないことがメリットだ。「事業者ローン会社」は、法人または個人事業主を対象に事業資金の融資を専門に展開。「二次元コード決済」は、通信キャリアなどが手掛けるスマートフォンを活用したキャッシュレス決済手段。手軽に利用できることから、市場は急速に拡大している。信販・クレジットカードや消費者金融、リース、事業者ローンなどはノンバンクと呼ばれ、銀行より金利が高い傾向にあるが、融資スピードが速く利用しやすいことが魅力だ。

【展望】
信販・クレジットカードは、ECという領域や次々に拡大するビジネスへの対応がスムーズなことから利用頻度が高まり、金融機能を持つ総合サービス会社として成長の勢いが強まっている。クレジットカードはさらに、公共料金や税金等の納付をはじめ、利用範囲が拡大。ポイ活などの利便性の高いサービスへの対応強化で、成長が続くと見込まれている。消費者金融は、ネットサービス対応が新たな需要を創出。経済成長を見据えたグローバル戦略も
加速しており、こうした新たな取り組みの継続が今後の成長要因になると予測されている。リースの市場動向は堅調。新たな成長分野として再生可能エネルギーへの対応などを強化している。電子マネーやQRコード決済は、政府がキャッシュレス決済を推進していることから、今後の急速な市場拡大が予測されている。

※1 ポイント活動の略称。さまざまな方法でポイントを貯めて商品やサービスの購入などに活用する取り組み

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流通

生産者が作り出した商品を、消費者の元に届ける役割を担っている流通業界。中核に位置するのは「小売業」で、ビジネスの基本は、商社などの卸売業から商品を仕入れ、消費者に販売することだ。小売業の業態としては、実店舗での販売が主体の一般的な小売業と、通販などリアルな店舗を持たない無店舗小売業の2つに分類できる。チャネルの多様化により、業界動向としては、単なる商品の提供だけではなく、購入したくなる仕掛けやサービスなど、消費者を刺激して購入意欲を高める取り組みが活発化している。

通販

多様化する消費者ニーズへの対応で引き続き成長が続くと予測

【基礎知識】
通販(通信販売)業界を構成するのは、各種メディアで商品を紹介し、消費者から注文を受けて販売する無店舗小売業者だ。業界をリードするのは、インターネットを利用してネット通販を行うEC事業者。ECサイトには、さまざまな業界の企業が出店して商品販売を展開しており、取扱品目の拡充で市場は年々拡大している。このほか、テレビ、あるいはラジオでショッピング番組を放送して販売するテレビ通販会社やラジオ通販会社、カタログを発行して販売するカタログ通販会社などが事業を展開している。

【展望】
通販に対する消費者ニーズは、従来からある充実した品揃えや低価格に加え、スムーズな注文、迅速な配送など、利便性を中心に多様化している。さらに置き配サービスやアプリの操作性向上、新たな支払い方法の採用など、提供サービスの拡大に向けた迅速な対応が各社で進められている。また、「ショールーミング」と呼ばれるリアルで商品を確認してから、通販で購入する消費者の存在も多いと見られる。そこで、実際に商品を手にとって確認できるショールームを開設する取り組みも、新たな成長を導く手段として注目されている。

専門店

商品ラインナップとターゲット層の拡大で新たな成長を切り拓く

【基礎知識】
専門店業界は、特化した商品カテゴリー内で専門性を発揮する企業が集まっている。家電量販店、カジュアル衣料、紳士服、メガネ、家具・インテリア、ホームセンター、ドラッグストア、書籍、カー用品、カメラなど、さまざまな業種に属する小売業者で構成されている。家電量販店は、生活家電を中心に低価格と充実した品揃えで成長してきた。ホームセンターは、郊外店を中心にDIY用品をはじめ、多彩な商品を提供。ドラッグストアが扱っているのは、医薬品や化粧品、日用品など。ファッション関連としては、カジュアル衣料や紳士服のほか、作業服、靴などの専門店があり、市場は低価格を強みとするファストファッションがリードしている。

【展望】
生活に不可欠な需要が中心であることから、業界全体では堅調な成長が見込まれている。その中で活発になっているのが、業種・事業者を問わず、取り扱う商品ラインナップや顧客ターゲット層の拡大により、新たな成長を切り拓く動きだ。たとえば家電量販店では、暮らし全体を視野に入れ、住宅リフォームや家具、酒類、食品など非家電事業を充実させ、ECサイトも自社構築してO to O※1やOMO※2への取り組みを本格化。ドラッグストアでは、生活必需品の供給と健康寿命の延伸を捉えた顧客サービスの拡充がスピーディに展開できるよう、企業基盤を強固にするM&Aが進んでいる。ホームセンターでは従来の一般消費者向け商品に加え、プロ向けの業務用商品の品揃えを強化。逆に、作業服専門店では充実した機能性をアピールポイントに一般消費者向け販売も推進。SPA※3の中にはD to C※4へ事業を拡大する動きも増えているほか、海外進出でも着実に成果をあげている。このほか、実店舗ではキャッシュレスによる利便性向上も、新たな顧客を呼び込む魅力になっており、電子マネーや二次元コード決済など多様な決済手段に対応することが急務になっている。
※1 Online to Offline:オンラインとオフラインを連携させて購買活動を促進させる施策
※2 Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの垣根をなくし、両者を一体化させて購買活動を推進させる施策 
※3 Speciality Store Retailer ofPrivate Label Apparel:ファッション商品の企画から生産、販売までの機能を垂直統合した製造小売業 
※4 Direct toConsumer:中間流通業者を通さずに、自社のECサイトやショールームなどを通じて製品を顧客に直接販売すること

百貨店

上質な接客と充実した品揃えを活かした施策をリアルとバーチャルで展開

【基礎知識】
業界を構成するのは、衣・食・住に関連する高級商品をトータルに扱う大規模小売業者で、全国展開型・鉄道型・地域特化型に分類される。全国展開型は、店舗を全国に構え、江戸時代に呉服屋として創業した老舗が多い。鉄道型は、経営母体が鉄道会社で、駅ビル直結の出店形態が主体。地域特化型は、地域に密着したサービス提供が強みだ。業界共通の特徴は、販売価格を明示する正札販売と対面販売。さらに、富裕層を対象とした外商というサービスがあり、専任担当者が手厚いサポートを提供している。

【展望】
実店舗では、人気ブランドへのコーナー貸与などで魅力ある売り場を拡充。売り場には豊富な経験と専門知識を持つ販売スタッフをコンシェルジュ※1として配置し、きめ細かなサービスで販売強化に努めている。並行して進められているのが、コロナ禍で強化したネット通販だ。対面での丁寧な接客という強みをネットでも活かし、販売コンシェルジュがオンラインでモニター画面を通じて接客を行い、店舗と同様の高品質な購入サポートを実現。メタバース※2への出店も増えている。このほか、不採算店の整理やM&Aによる経営の効率化も推進。百貨店ならではの商品ラインナップ、上質な接客とデジタルを融合した工夫と施策が、今後の成長をリードすると予測されている。

※1 担当する業務領域における幅広い知識とスキルを習得し、顧客のあらゆるリクエストに応えるプロフェッショナル
※2 インターネット上に構成される3次元の仮想空間

スーパー・コンビニエンスストア

暮らしと密着した、必要不可欠な業界PB※1やデジタル化などで、さらなる成長へ

【基礎知識】
食料品を中心とする日用品を扱っているスーパー業界。中でも衣料品や家電など、食品以外にも多様な商品を揃える総合スーパーはGMS※2と呼ばれ、一度で何でも揃う利便性と低価格を実現している。M&Aで規模を拡大し、圧倒的な売上を誇る。このほか、低価格が魅力のディスカウントストアや100円ショップなど、多彩な小売業で業界は構成されている。コンビニエンスストア業界を構成するのは、フランチャイズ(FC)企業とその加盟店。加盟店オーナーがFC本部と契約を結び、商品の供給などのサービスを受け店舗を運営する業態が主流だ。

【展望】
どちらの業界も日常生活に欠かせないことから、安定需要が見込まれる。その中で、社会動向への的確な対応が、成長を高める力になると考えられている。そこで進められているのが、PBの強化だ。独自の企画で早期に顧客と利益が得られることから、各社とも積極的に展開。ヒットPBを企画するため、顧客ニーズの早期把握を可能にする大規模なビッグデータ解析システムの導入も進んでいる。また、店舗では業務の効率化に向けて、AI陳列ロボットや無人レジの導入が本格化。ネットスーパーでは、利便性向上や集客に貢献するアプリ開発のほか、外出が難しい人の買い物を手助けするロボット配達の運用も始まっている。こうした先進技術の導入も、今後の成長には見逃せない。加えてコンビニエンスストアで進んでいるのは、都市部・住宅街・郊外といった出店地域に合わせて商品構成を最適化する戦略だ。一人当たりの購買頻度と購買額の向上とともに、食品ロス減少によるSDGsへの貢献も視野にある。また、他業態との連携、対応する決済方法やポイント制度の拡大などにより、新ルートからの顧客獲得も進んでいる。このほか、海外進出も本格化。さらに、総合商社・通信キャリアとの連携を強化し、「リアル×デジタル×グリーン」を融合した新たな生活者の価値創造に取り組むことを表明した大手コンビニエンスストアもあり、各店舗でどのような新サービスを提供するのか、その動向が注目されている。

※1 Private Brand:商品を販売する業者独自の企画商品。開発から生産・販売まで自社で行うため、コスト削減が可能。他社との差別化も図れる 
※2 General Merchandise Store:ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア

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情報・通信

業界を構成する企業は、IT系やICT系と呼ばれることが多く、情報処理・通信・インターネットサービスに分類できる。情報処理に属するのは、さまざまなアプリやシステム、データベースといったソフトウェアの企画・開発・運用など、情報の入手から加工、活用に関わる企業だ。通信は、情報を効率よく正確に伝送する手段を設置して運用する企業。具体的には、固定通信、移動体通信、ケーブルテレビといった通信サービス事業者を指す。インターネットサービスは、インターネットを利用して、顧客が求める各種コンテンツを、求められる端末に最適なスタイルで提供する企業だ。

情報処理

社会のデジタル化を受けて今後も巨大な新市場が次々に誕生

【基礎知識】
業界を構成するのは、顧客の課題を解決するシステムの企画・開発を手掛ける企業。オーダーメイドで取り組む企業はSIer※1、パッケージソフト※2を使用してソリューションを提供する企業はITベンダーと呼ばれることが多い。業務の対応範囲として、企画の前工程に行うコンサルティングや、開発したシステムの運用・保守といった後工程まで取り組む企業もある。業態の分け方は親会社に注目したものが一般的で、系列がまったくない「独立系」のほか、インフラ企業が親会社の「インフラ系」、コンピュータメーカーが親会社の「メーカー系」、商社が親会社の「商社系」、金融機関を親会社に持つ「金融系」、海外企業が親会社の「外資系」に分類される。このほか、AI、IoT、RPA※3、クラウドサービス※4、ビッグデータ、セキュリティ、ロボティクス、ブロックチェーン※5、DX、アウトソーシング※6など、特化したソリューション提供に専念する企業もある。

【展望】
業界の特徴は、常に新しい技術や概念が登場することだ。そのため、今後も巨大な新市場が誕生し、成長が続く可能性が大いにあると予測されている。その中でいま注目されているのが、生成系AIだ。業務の効率化推進をはじめ、さまざまな可能性が示されており、画期的なソリューション提案に大きな期待が寄せられている。また、専門知識や経験がなくても、簡単にシステムが開発できるノーコード・ローコード※7製品への注目度も高い。このように、世の中には情報処理が対応すべきテーマが目白押しだ。その一方で、IT人材が不足するという懸念は大きく、優秀な人材の確保・育成が、今後の成長を左右する重要なポイントになっている。

※1 SI(System Integration)+er:システムインテグレーション(SI)を行う企業を表現するため、「〜する人」という接尾辞「er」を付けた造語。システムインテグレータとも呼ばれる 
※2 特定の業種や業務で発生する汎用的な課題を解決する既製品として開発・販売されているソフトウェア 
※3 Robotic Process Automation:これまで人間が行ってきた業務をAIやロボット技術などを活用して高速・正確に自動処理する技術 
※4 ネットワーク上でデータの処理・保存・管理などの機能を提供するサービス 
※5 ネットワークに接続した複数のコンピュータでデータを分散共有することにより、耐改ざん性と透明性を実現する技術。仮想通貨の信頼性を支えるキーテクノロジーになっている 
※6 外部委託サービス。顧客企業内で行っていた業務を切り離し、その管理・運用を外部組織の企業が請け負って専門に取り組むサービス 
※7 専用ツールを使うことで、プログラミング言語をまったく使わない、あるいはほとんど使わなくても思い通りのシステム開発が行える新しいシステム開発手法

通信

高速性、利便性、高セキュリティを低コストで利用できる環境がさらなる成長を

【基礎知識】
通信インフラを提供する企業で構成されるのが、この業界だ。分類は、固定回線、モバイル回線、海底ケーブル・衛星通信と、使用回線で分かれる。固定回線事業者は、光回線などの有線回線を利用して大容量データが高速でやり取りできる環境を提供している。属するのは、固定電話回線を提供する企業をはじめ、電力会社系列の通信事業者、ケーブルテレビ事業者のほか、ISP※1も含まれる。モバイル回線事業者は、スマートフォンなどの移動体向けに無線の回線を提供している企業。MNO※2とMVNO※3がある。海底ケーブル・衛星通信事業者は、文字通り海底ケーブルや衛星を使用した通信サービスを提供している企業。ビジネスの基本はB to B。海外との通信・通話・データのやり取りが実現しているのは、この事業者が構築しているシステムのおかげだ。

【展望】
通信は、あらゆる業界で必要とされる重要なインフラであり、高速化ニーズに応えることで成長が続くと考えられている。5Gはモバイル通信の快適さはもちろん、遠隔医療の進化、VR/AR/MRの日常利用、スマートシティ※4での利用など、さまざまな領域の可能性を広げることが期待されている。さらに、Beyond 5G※5・6G・7Gの取り組みにも熱い視線が注がれている。また、IoTの進化で利便性向上と同時に、サイバーリスクも高まっていることから、高セキュリティの整備が低コストで利用できることにも強い期待が寄せられている。さらなる成長の要因にあげられているのは、こうした期待にいち早く応えることだ。

※1 Internet Service Provider:インターネット接続サービスを提供する組織。インターネット接続事業者やプロバイダと呼ばれることが多い。専業事業者のほか、回線事業者が兼務している場合もある 
※2 Mobile Network Operator:自社で通信設備・回線を持つ大手携帯キャリア 
※3 Mobile Virtual Network Operator:MNOから設備・回線を借り受けて自社ブランドの移動体通信サービスを提供する事業者。格安SIM業者とも呼ばれる 
※4 情報通信技術やAIなどの先端技術を利用して、エネルギーや交通、行政サービスなどのインフラを効率的に管理・運営し、環境に配慮しながら人々の生活の質を高め、便利な暮らしの実現を目的に作られた都市 
※5 5G以降のあらゆる通信規格を想定したもの。総務省の想定では2030年代に6G・7G が実用化される可能性がある

インターネットサービス

各事業とも堅調に成長
注目は従来の枠組みにとらわれない取り組み

【基礎知識】
業界は、ポータルサイト・SNS※1・モバイルコンテンツ・動画配信・ネット広告の各事業を手掛ける企業で構成されている。「ポータルサイト事業者」が手掛けるのは、ニュースサイトや検索サイトといったWebサイトの運営。利用者が多いほど掲載広告も増えて売上につながることから、常に魅力あるサービスの発信に注力している。「SNS事業者」が運営するのは、インターネット上の会員制コミュニティサイト。「モバイルコンテンツ事業者」は、スマートフォン・タブレット向けに有料コンテンツを配信している。「動画配信事業者」が展開するのは、動画コンテンツが観たいときに視聴できるサービス。コンテンツの充実とサブスクリプション※2の一般化で利用者は増加している。「ネット広告事業者」は、WebサイトやSNSなどで宣伝活動を行う事業を展開。独立系や広告会社系、商社系の企業がある。

【展望】
インターネットが社会に浸透したことから、各事業とも成長は堅調という見方が一般的だ。大手ポータルサイト事業では、利便性の向上が利用者拡大につながるため、検索性の向上と提供コンテンツの多様化が進められている。その一方で、熱心なユーザーの集客を目的に特定分野に特化した専門ポータルサイトも増加。このビジネスモデルはSNSと共通する部分も多いことから、同様のユーザーが集うSNS事業者と連携し、より詳細な情報を発信するポータルサイトとして認知度を高めるなど、さらなるユーザー獲得に向けたさまざまな手法が模索されている。SNSで注目されているのは、マーケティングメディアとしてのビジネス利用だ。企業が自社アカウントを開設し、利用者とのコミュニケーションをビジネス企画に反映したり、製品・サービスの認知度拡大に利用することも増えている。こうした新たなプロモーション機能の提供により、一気に成長する可能性が示唆されている。モバイルコンテンツ事業では、動画・音楽・電子書籍など、どのコンテンツも増加している。その中で市場を牽引しているのは、ゲーム。今後は海外市場のほか、メタバースの活用も重要な施策にあげられている。動画配信事業では、配信会社のオリジナル作品が大きな成長要因になっている。オリジナル作品を鑑賞できるのは配信会社の動画配信サイト限定で出演者や企画もクオリティが高く話題を呼んでいることから、こうした作品づくりが市場をさらに拡大すると予測されている。ネット広告事業者が取り組むのは、動画広告の成長などにより、広告メディアとして最大規模になったインターネットの新たな利用法だ。プライバシー保護の観点から、Webサイトを訪れたユーザーの情報獲得を法規制する動きが欧米で本格化。日本では情報の活用に、ユーザー本人の同意が必要になった。こうした状況から、ネット広告の特徴だったターゲットの絞り込みが困難になってきており、この新たな環境下で、いかに高い広告効果を発揮するか、その取り組みが注目される。

※1 Social Networking Service:登録した利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービス 
※2 商品やサービスを直接購入するのではなく、対象となる商品やサービスを一定期間利用できる権利に対して料金を支払うビジネスモデル

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運輸・エネルギー

運輸業は、輸送機器を使って人やモノを運ぶビジネス。物流の大動脈を担っている業界である。トラックや列車など自ら輸送手段を持つ事業者のほか、フォワーダー※1や3PL※2など、さまざまな事業者が、戦略的な手法を確立して価値ある運輸サービスを提供している。業界全体としては、将来的な国内需要の縮小を予測し、需要が拡大する海外ビジネスへの対応がいち早く本格化している。エネルギー業界は、社会のインフラを支える重責を担っており、原材料の石油や天然ガスなどを、人々が使いやすいかたちに変えて供給している。業界を構成する主な業種は、電力・ガス・石油の3つ。資源のほとんどを海外からの輸入に頼る日本にとって、この業界はなくてはならない重要な存在である。

※1 国際物流のプロフェッショナル。自らは輸送手段を持たず、荷主と直接契約して、その内容に応じて最適な輸送手段を選択して国際貨物輸送を行う事業者
※2 Third(3rd)Party Logistics:輸送サービスだけでなく、物流システム全体を荷主に提案し、全体業務を受託する事業者

陸運

直面する課題に先進技術と斬新な発想で対応
暮らしの生命線としての重要な役割を担い続ける

【基礎知識】
陸運(陸上運送)業界は、国内で最も多くの輸送量を扱っており、暮らしの生命線を支えている。事業者の多くは、トラックで貨物を輸送。取り組む事業は、法人の大口需要を担当する企業物流と、個人対象の小口需要に対応する宅配に分類でき、大手はどちらの事業も手掛けている。業界の多くを占めるのは、大手と協業する地場の中小企業。最近は、軽貨物車両で宅配に従事する事業者や、フードデリバリーに特化した事業者も増えている。

【展望】
業界は好調なECの追い風を受けている一方で、ドライバー不足※1と2024年問題※2に直面している。そこで、先進技術を活用した省人・省力・効率化対策が進んでいる。大口輸送では輸送の効率化に向けて、AI、IoT、ビッグデータ解析、5Gなどを積極導入。高速道路でのトラック自動運転やドローン配送を実現する動きが本格化している。大規模物流拠点では省人化に貢献する業務ロボット、配達シーンでは配送のムダを排除する自動配車システムの活用が進んでいる。また、環境負荷の低減と燃料価格の高騰に有効な施策として、EV・HEV・FCV※3の導入も加速。企業の壁を超えた共同配送※4も、運行車両の削減で同様の効果をあげることから、積極性を増している。このほか、業界大手は海外戦略も強化。宅配ネットワークの整備や3PL対応をはじめ、現地法人との連携やM&Aも推進。米国では現地企業と「空飛ぶトラック」の実用化に向けた共同開発が進むなど、幅広い視点から成長への取り組みが進んでいる。

※1 背景にあるのは、少子高齢化と現役ドライバーの高齢化。積極採用を推進するため、労働環境の改善が推進されている 
※2 働き方改革に基づき、ドライバーの時間外労働時間を年間960時間に制限。その結果、一人当たりの走行距離が短くなるため、事業運営への影響が懸念されている 
※3 Fuel Cell Vehicle:燃料電池車。搭載した燃料電池から作られた電気で走行する。燃料が水素の場合、走行中に排出されるのは水のみで究極のエコカーと言われている 
※4 届け先が同じ荷物を持ちより、1社がまとめて配送を担当。トラックの積載効率を高め、業務効率化・コスト削減・環境対策が実現できる

海運

ビジネスフィールドはグローバル
捉えた世界動向への的確な対応で常に成長

【基礎知識】
海運は、船舶を使ってモノや人を海上輸送する業界。担う役割は、国内輸送を行う内航海運と、海外輸送を担う外航海運だ。船の種類は、様々な貨物を積載したコンテナを運ぶコンテナ船※1、穀物や鉱石などの貨物を梱包せずに運べるバラ積み船、液化天然ガスを運ぶLNG※2船、石油関連製品を運ぶタンカー、自動車輸送専用の自動車船など。このほか、フェリーなどの旅客船を運航している海運会社もある。大量輸送・重量物輸送を低コストで行えることが特徴で、モーダルシフト※3の観点からも注目されている。

【展望】
大量輸送を低コストで行える特徴をさらに高めるため、省エネ性能を向上する取り組みが各社で進んでいる。大きな流れは、LNG、水素、バイオ燃料などを燃料として利用できる新システムの開発。これが実現すれば地球環境対策にもつながるため、SDGsが重視される現代では強力なアピールになり、新規ビジネス獲得のビッグチャンスになると考えられている。もうひとつ注目される動きが、デジタル化への取り組みだ。デジタル機器を活用した作業の効率化、AIによる積載の最適化、DXで運航の安全性を高める環境作りなどが進んでいる。ビジネスフィールドが世界に広がる海運では、常に成長を手にするため、国際情勢への対応が精力的に行われている。

※1 定期的なスケジュールで就航することから定期船と呼ばれることもある。また、コンテナ船以外は貨物に合わせたスケジュールで随時就航することから不定期船とも呼ばれる
※2 Liquefied Natural Gas:液化天然ガス
※3 環境負荷を低減するため、トラックによる幹線貨物輸送を大量輸送が可能な別の輸送手段に転換すること。海運のほか、鉄道も対象になっている

航空

環境対策を推進し、国際輸送インフラとして今後も重要な役割を担い続ける

【基礎知識】
航空機で国内外への輸送サービスを提供するのが、航空業界。人を運ぶ旅客分野と、モノを運ぶ貨物分野がある。旅客分野を構成するのは、メガキャリア※1とLCC※2。メガキャリアは従来からある航空会社で、豊富な運航路線を整備し、質の高いサービスを提供する。LCCは格安料金が魅力の航空会社だ。貨物分野には、国内貨物と国際貨物がある。他の輸送手段より輸送コストが高いことから、早く届けたい、繊細な輸送が必要、付加価値が高い、といった貨物が輸送対象だ。

【展望】
旅客分野は、観光ニーズの回復により市場の拡大が予測されている。牽引役はLCCとの見方が強く、LCC強化に向けた業界再編が進んでいる。今後も社会情勢の影響を一時的に受ける状況は考えられるものの、世界的な移動インフラであることから、長期市場は堅調と見られている。貨物分野では国際貨物の存在感が強い。特に、高性能な電子部品や医薬品、医療機器、自動車をはじめ、人気商品など早期入手のニーズが高い製品の輸出入に貢献している。こうした中で急務なのが、脱炭素化への取り組みだ。航空機のCO2排出量は他の輸送手段と比べて多い。そのため、SAF※3の導入など、「2050年には排出量実質ゼロ」のクリーンなフライトをめざした取り組みが進められている。

※1 レガシーキャリアやFSC(Full Service Carrier)という呼び方もある 
※2 Low Cost Carrier:格安航空会社 
※3 Sustainable Aviation Fuel:循環型原料から製造される航空バイオ燃料。燃料生産から飛行までの全工程で生じるCO2を削減できる

鉄道

日々の移動を支え、社会貢献度はトップレベル
沿線の魅力を高める多角化も推進

【基礎知識】
鉄道車両と鉄道路線を維持・管理し、人やモノを運ぶサービスを提供している業界。通勤や通学など国民の移動を支える重要なインフラであり、社会貢献度はトップレベルだ。属する企業は、JRグループ・私鉄・公営鉄道・第三セクター※1に分類できる。鉄道を利用した旅客・貨物の輸送事業を中心に、沿線の利便性を高めるバスやタクシー事業も展開。さらに、利用者増が業績と直結することから、沿線の価値創造に向けた多角化として、駅を起点とした不動産事業、百貨店・商業施設などの流通事業、ホテル・レジャー事業のほか、クレジットカード事業なども展開している。

【展望】
生活様式の多様化に対応して実施されたのが、終電時刻の繰り上げや変動運賃の導入だ。生活インフラとしての役割を果たしつつ、運用コストを削減して業務効率化を図ることが狙いである。また、多角化は着実に収益増の立役者となっており、旅客数の増加をさらなる成長と結び付けるために、沿線の魅力を高める取り組みは強化が進むと予測。その一例として、他社連携を採用したMaaS※2も増加している。こうして確立された新たな事業の取り組みが、リニア新幹線※3などの高速鉄道システムに次ぐ海外ビジネスの推進役となり、成長を加速させることが期待されている。

※1 国や地方公共団体(第一セクター)と民間企業(第二セクター)の共同出資で設立された事業体 
※2 Mobility as a Service:鉄道やバスなどの交通手段と宿泊施設を連携させ、出発地から目的地への移動をITで最適化し、決済までをワンストップサービスとして確立。観光客向けサービスとしての運用が始まっている 
※3 日本独自の超電導リニア技術によって実現する新たな新幹線。最高時速505キロを掲げ、実用化に向けた取り組みが進んでいる

電力

競争が激化する市場環境、クリーン電力を安定供給する施策に注目

【基礎知識】
現代社会を根底から支えているのが、電力業界だ。需要は、将来にわたって続くと考えられている。業界を構成するのは、発電・送配電・小売電気の3事業者。発電事業者が発電した電気を、送配電事業者が運び、小売電気事業者が需要家に販売するというのが、業界のビジネス構造だ。2016年に電気の小売全面自由化がスタートし、多くの異業種企業が「新電力」として新規参入。業界の活性化が進んだものの、燃料価格の高騰などで経営環境は厳しく、企業淘汰が進んでいる。

【展望】
安全性の高いエネルギーの安定供給に取り組む電力業界。政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル宣言※1」に対応するため、自然エネルギーの積極利用や再生可能エネルギー比率の伸長、火力発電の依存度低下に向けた取り組みを推進。2023年5月にはGX脱炭素電源法が成立し、脱炭素電源の利用促進を図りつつ、電気の安定供給を確保するための制度が整備された。環境の厳しさが続く中、クリーン電力の安定供給を実現する各社の取り組みが注目されている。
※1 温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量実質ゼロをめざすという宣言

ガス

需要拡大に向けた施策を国内外で積極展開、脱炭素に向けた研究開発も加速

【基礎知識】
ガス業界のビジネスモデルは、輸入した原材料をガスとして製品化し、需要家に提供すること。業界を構成するのは、導管を通じて供給する都市ガス業者と、ガスボンベを設置して供給するプロパンガス(LPガス)業者だ。社会インフラとしての役割を担っているため、安定した需要が市場を支えている。ガス業界も、2017年から都市ガスの全面自由化※1がスタート。2022年に製造事業・小売事業と導管事業の分離が実施され、新規参入の増加による市場の激化が本格化することが予測されている。

【展望】
ガスも電気と同様、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル宣言」への対応を進めている。その中で注目されているのが、CO2の排出実質ゼロを可能にする原材料「e-メタン」の生産だ。現在はまだ生産コストに課題があるため、低コスト生産に向けた研究開発が積極的に行われている。また、ガス需要を高めるため、ガスで電気と熱湯を作る家庭用燃料電池の普及策も推進。日本で培ったノウハウを、ガス需要が増加する海外へ展開するグローバル戦略も、実施地域が広がっている。

※1 プロパンガスは以前から自由化されている

石油

総合エネルギー企業として、石油事業の海外展開と新エネルギー育成を強化

【基礎知識】
石油はさまざまなエネルギー生産の原料となる素材だ。そのため石油業界は社会経済の発展に、とても重要な役割を果たしてきた。業界を構成するのは、油田開発から石油生産を行う石油開発系と、石油製品の精製・販売を行う石油元売り系の企業。資源のない日本を支える重要な役割を担い、成長を続けてきた。そしていま、業界は大きな転換期を迎えている。要因は、脱炭素化への動きをはじめ、世界的な原油の減産と価格高騰、国際情勢の先行不透明さなどだ。そこで業界各社は、新たなビジネスモデルの構築に向けて走り出している。

【展望】
脱炭素化の影響で、石油を含む化石燃料の使用抑制が進むことから、重要なテーマになっているのが脱石油である。業界各社は、総合エネルギー企業として新たな事業の柱を育成するため、化石燃料に代わるエネルギー事業の確立に取り組んでいる。際立っているのは、太陽光やバイオマスなどの再生可能エネルギーと水素エネルギーへの対応だ。その一方で、アジア市場では経済の成長を背景に需要は増加している。特に、中国、韓国、インド、ベトナムから、日本の石油会社が保有する世界的にハイレベルな技術とノウハウに、熱い視線が注がれている。その期待に応え、原油の精製や輸出、小売といった事業への参画に向けた調整が進んでいる。

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建設・不動産

土地や道路、ビルをはじめとする建物などの建設に携わるのが、建設業界だ。属する企業は、あらゆる建設工事をトータルに請け負う「ゼネコン」、ゼネコンの下で業務を請け負う「サブコン」のほか、住宅を作る「住宅メーカー」、工場などを作る「プラントエンジニアリングメーカー」、電気通信設備など特定分野に特化した「専門事業者」などだ。不動産業界が取り組むのは、建物や土地などに関わるビジネス。業界は、ビルやマンションなどを企画開発する「不動産開発企業(デベロッパー)」、不動産の売買や賃貸に関わる「不動産流通企業」、各種建物を現場で管理する「管理企業」といった企業で構成されている。

住宅

高付加価値化など実現した特徴や魅力をわかりやすく伝えて顧客を獲得

【基礎知識】
住宅業界を構成するのは、戸建住宅の建築・販売を行うハウスメーカーをはじめ、住宅リフォーム、賃貸住宅に関連する事業を手掛ける企業。業態は、全国規模の大手企業から、地元に根ざした個人経営の工務店まで幅広い。建築・販売事業は、顧客の希望に応じて設計・施工する注文住宅事業と自社で企画から販売まで行う分譲住宅事業に分類でき、最近は坪単価を抑えた分譲住宅を販売するパワービルダー※1の勢力が高まっている。住宅リフォーム会社が取り組むのは、経年劣化した住宅の全体または外装や設備などを新築のように回復する工事。住宅を改修して価値を高めるリノベーションへ事業を広げる企業も増えている。賃貸住宅に関連する事業にあげられるのは、所有住宅の賃貸事業のほか、賃貸事業の受託や賃貸住宅の管理など。賃貸住宅専門企業のほか、総合不動産会社やハウスメーカー、工務店などが専門部署を設けて事業に携わっている。

【展望】
コロナ禍で人々が自宅で過ごす時間が増加した結果、住宅に対する関心が高まり、新築やリフォーム需要の向上につながった。この流れと連動して注目されたのが、スマートハウス※2、ZEH※3、HEMS※4といった高付加価値住宅だ。脱炭素化に向けて政府もサポートを強化していることから、ハウスメーカー・工務店の中には、動画サイトで自社の優位性、競合他社との差別化をアピールして顧客獲得につなげる動きも活発になっている。リフォームも単なる設備交換ではなく、高機能品の導入による付加価値化が加速。築10年以上のリフォーム対象住宅が全住宅の7割を超えたとの調査もあり、市場は拡大するとの見方が強まっている。賃貸住宅は、テレワークの普及などに伴う生活スタイルの変化により、全国で市場は拡大傾向にある。今後の需要を予測するキーワードになっているのは、「住み心地の良さ」。暮らしの利便性、省エネ性能、IoTなどのデジタル対応のほか、注目されているのが「楽器が楽しめる」「ペットが飼える」「菜園がある」といった趣味対応だ。住宅は、業界全体の動きとして、実現した特徴や魅力を、いかにわかりやすくアピールして顧客獲得につなげるかが、成長を左右するポイントになっている。

※1 床面積30坪程度の土地付き戸建住宅を2,000〜4,000万円程度の価格で分譲する建売住宅業者 
※2 太陽光発電や蓄電池、住宅機器などをITで最適制御し、環境へのやさしさと快適さ・利便性を高めた住宅のこと 
※3 net Zero Energy House(ゼッチ):断熱性能の向上や省エネ機器の導入でエネルギー消費を抑えると同時に、太陽光発電システムなどでエネルギーを発電し、エネルギー収支をゼロまたはプラスにする住宅のこと 
※4 Home Energy Management System(ヘムス):家庭で使用している電力をモニターなどで可視化・制御することで節電効果を高めるシステム。日本政府は2030年までに全住宅へ導入することを計画している

建設

先進技術で人材確保への道を切り拓き国土強靭化などで重要な役割を担う

【基礎知識】
業務は官公庁や民間企業からの依頼で発生し、請け負う工事は土木と建築に大別できる。土木工事は、建設を行うための土台作りや道路・橋梁などのインフラ整備を担当。建築工事は、ビルや工場などの構造物を造り上げることに携わる。工事には、元請けのゼネコンから下請けのサブコンや専門事業者など、多くの企業が参画する。ゼネコン大手は業界に与える影響が大きく、スーパーゼネコンとも呼ばれる。大型事業には、全体の計画・調査・設計を担当する「建設コンサルタント」が参画することも多い。

【展望】
建設業界は、大型案件への取り組みに沸いている。政府の「国土強靭化5か年加速化対策※1」への対応をはじめ、耐震・防災工事、道路や下水道といった社会インフラの老朽化対策、全国の都市再開発といった大型案件が進行中。実施に向けて調整中の大型案件も数多い。また、長期的な成長を視野に、海外案件の獲得に向けた体制の整備も進められている。このように需要が旺盛な一方で、大きな課題になっているのが、人材の確保である。そこで取り組まれているのが、DX・AI・ICTを駆使した業務の効率化だ。先進技術の力で働き方を改善して魅力的な職場作りを実現し、2024年問題※2を解消へと導き、人材確保のプラス要因になることが期待されている。

※1 激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策、国土強靭化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進、という3つを柱に約15 兆円の予算を確保して2021年度からスタートした 
※2 労働時間に上限規制を設けた改正労働基準法は2019年に施行されたが、建設業については5年の猶予期間が設けられていた。この猶予が終了し、2024年4月から正式な運用が開始された

不動産

マンション価格の高騰で市場は活況、空き家の資産活用提案にも注目

【基礎知識】
不動産業界は、土地や建物などに関わるビジネスを展開する企業で構成され、デベロッパーと不動産流通企業に大別できる。デベロッパーは、土地を取得して地域の価値を高める事業を展開する企業。マンション開発を主に手掛けるマンションデベロッパーと、多彩な不動産を開発して街作りに取り組む都市開発デベロッパーがある。不動産流通企業は、建設された不動産の売買を行う不動産販売と、不動産を貸したい人と借りたい人の間をつなぐ不動産仲介を担当する。

【展望】
デベロッパーの事業は、マンション・都市開発とも着実に推移している。業界トピックとしては、2023年の東京23区のマンション平均販売価格が1億円を突破し、販売も好調なことだ。富裕層の購入意欲は高まっており、今後も継続するとの見込みから、デベロッパーは高額物件シフトを強化。多くのマンション取得希望層は広範な地域の中から最適な物件を効率よく見つけ出すため、不動産流通企業への期待が高まっている。各社は生成系AIを活用したりVRを利用したバーチャル内覧など、先進技術を駆使した不動産テック※1の導入を進めている。また、新たな提案として注目されているのが、空き家をサテライトオフィスとして利用するというもの。増加傾向にある空き家を活用するアイデアの動向に熱い視線が集まっている。海外では各種不動産の開発・販売ニーズが高まっていることから、日本で培ったノウハウの海外展開も広がっている。成長するアジアでは複合的な街作りニーズが高まることから、新たな成長市場としての期待が高まっている。

※1 不動産とテクノロジー(Technology)を合わせた造語。AIやICTを駆使して従来の商慣習にとらわれない仕組みで不動産の価値やサービスを生み出す取り組み

設備・建物管理

今後も安定した需要が継続、先進技術による業務効率化で期待に対応

【基礎知識】
設備業界は、建築設備に関わる企業で構成される。工事関連としては、空調や電気設備(電設)などがあり、大型案件にはサブコンとして参画することが多い。このほか、キッチン・トイレ・太陽光発電などの住宅設備機器(住設)、アルミサッシ・木材といった建材に関連する企業も含まれる。建物管理業界を構成するのは、建物の清掃、設備管理、警備、防災などを手掛ける企業。不動産や金融の系列会社のほか、地域に密着した独立系も多い。

【展望】
新築物件の建築が今後も続くことから、両業界とも安定した需要が継続すると見込まれている。設備業界では、各種物件の建て替え、都市再開発、社会インフラの老朽化対策、環境対応、自然災害復旧、賃貸物件のリノベーションなども、成長要因になると考えられている。またM&Aや、海外事業拡大をめざす戦略も増えている。人材不足の課題に対しても、政府の設備投資支援によってDX・AIをはじめ、BIM※1やロボットなどの先進技術を活用した取り組みが進んでいる。今後も積極的な技術革新への対応によって、さらなる業務効率や労働環境の向上が見込まれる。

※1 Building Information Modeling:システム上に現実と同じ建物を立体で再現。各種の設計データを駆使したシミュレーションにより、工事や設備管理などの効率化に活用されている

プラントエンジニアリング・環境エンジニアリング

社会・経済に多大な影響力を持つ業界、増加が続く環境系と新エネルギー関連の新規案件

【基礎知識】
プラントエンジニアリング業界は、プラント(製造工場・処理施設)の企画・設計から工事、操業までを一括で請け負う企業で構成される。プラントの種類は、エネルギー系・産業系・化学系など幅広い。幅広く対応する総合エンジニアリング会社や、特定プラントに特化した専業企業など様々だ。環境エンジニアリング業界は、専業の中でも「産棄物処理・リサイクル」や「水処理システム」などの環境系に特化した企業で構成されている業界だ。

【展望】
日本の技術は、海外でも評価が高く、事業はグローバルに広がっている。需要が多いのは石油・ガス・電気といったエネルギー系と水処理関連で、中東・アジア地域での受注が好調だ。また、世界各国でSDGsを見据えた環境系や、脱炭素化に対応する新エネルギーへの取り組みが動き出している。さらには海洋開発など、今後も需要は続くと予測されている。各社はDXの推進で業務効率化と付加価値を高めるなど、国際競争力の強化に努めている。国内では、既存プラントの安定操業を最重要課題として捉え、メンテナンス技術の高度化や再構築提案を積極的に進めている。

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サービス

サービスとは、顧客のさまざまな要望に応え満足してもらうために、有形・無形のモノや行為を提供すること。業界を構成するのはこうした事業を手掛ける企業であり、特徴はビジネスモデルが実に多彩なことだ。人の価値観や嗜好は、時代によって変化・多様化する。その内容をいち早く捉えて最適化した新サービス・新ビジネスの創出で業界は成長してきた。近年は、生成系AIやロボットの活用によりサービスのあり方や提供方法が変化し、人手を介さないことも増えてきた。この傾向は今後も強まることが想定されている。そこで、時代とともに成長する要因になるのは、想像力や感情など「人間だけが持つ能力を活かすこと」だと考えられている。

フードサービス

社会の変化にスピーディに対応、メニューなどに反映して人気を獲得し続ける

【基礎知識】
食に関するサービスを提供する、フードサービス業界。構成する企業の業態は、大きく3つに分類できる。「外食」は、店舗など家庭外で食事を提供する企業。「中食(テイクアウト/デリバリー)」は、家庭で食べる弁当や惣菜などを家庭外で調理して販売する。「給食受託」は、企業や学校の食堂運営を請け負う企業だ。業界の中核を担っているのは外食であり、この分野には、レストラン、ファストフード、居酒屋、コーヒーショップなどを営む企業も含まれる。

【展望】
フードサービスは、変化の激しい業界だ。たとえば近年の外食では、ダイエットメニューを提供する、高齢者向けに量やカロリーを減らす、訪日外国人向けに日本食をアレンジする、といった取り組みが誕生した。また、外食企業が中食に進出する、給食受託企業がレストラン経営に乗り出すなど、業態の垣根を超えた動きも活発化。消費者の多様なニーズに対応したメニューや店舗作りが進んでいる。このほか、新規市場を求め和食メインで海外進出する企業も増えている。こうした新たな取り組みを一過性のブームで終わらせては成長を見込めない。社会動向をいち早く察知して、自社ブランドやメニュー、店舗運営に落とし込み定着させる。ダイナミックな変化にスピード感を持って対応し人気を獲得し続けることが、成長を続ける重要な戦略になっている。

映画・テーマパーク・アミューズメント

新しい娯楽のあり方を追求、日本らしさをグローバルへ発信

【基礎知識】
日常と一線を画した時間・空間・世界観を提供するのが、この業界だ。映画業界を構成するのは、「制作」「配給」「興行(映画館)」に携わる各企業。テーマパーク業界に属するのは、広大なエリアで設定テーマに沿った娯楽を提供する企業である。アミューズメント業界は、レジャー産業の中核。ゲーム開発やゲームセンターをはじめ、カラオケやパチンコ・パチスロといった施設の運営会社で構成されている。今後に向けては、国際会議場や映画館などの各種施設を一体化した統合型リゾート施設(IR※1)の誕生も注目されている。

【展望】
映画業界では、2024年のトップ2作品が興行収入100億円を突破した。さらなる成長に向け、人気作品のシリーズ化や海外配給が計画され、映画館も大画面化や新たな音響演出など集客拡大に向けた対応が活発だ。テーマパーク業界は、世界的な施設が誕生し市場が活性化。リピーターとインバウンドの獲得に向け、新設備の導入などが進んでいる。アミューズメント業界では、企業単位の業績が向上。IRをビジネスチャンスと捉える企業もあり、どのような新サービスを創出し、世界へアピールしていくのか、その動向が注目されている。
※1 Integrated Resort:カジノをはじめ、国際会議場やホテル、ショッピングモールなどを1ヶ所にまとめた複合リゾート施設

マスコミ

インターネットと保有メディアを融合し、新しい価値創造を追求する

【基礎知識】
マスコミ業界は、新聞、通信社、放送、出版といったマスメディアと、広告代理店で構成されている。各種の情報を制作・編集して世の中に提供するビジネスだ。「新聞」は全国紙のほか、地域に特化したブロック紙、スポーツ、産業など特定分野に特化した新聞社も多い。「通信社」は、取材とニュースの配信だけを実施。「放送」は、テレビ、ラジオ、衛星放送の3業態。「出版」は、雑誌や書籍などの印刷物を発行している。「広告(広告代理店)」は、企業や製品の広告をメディアに仲介する業務を請け負っている。

【展望】
インターネットの普及で、人々が情報を入手する方法は完全に変化した。成長している企業に共通しているのは、インターネットを新たなメディアと捉え、既存の保有メディアとの融合を図っていることだ。たとえば新聞や出版では、情報の性質により、即時性の高いWebサイトと保存性に優れた紙媒体を使い分ける。放送では、SNSで視聴者の意見をリアルタイムに集めて番組作りに活かす。広告代理店は高い広告効果を得る仕組みづくりのため、AIやビッグデータ、AdTech※1などをマーケティングに導入している。

※1 Advertising(広告)とTechnology(技術)を合わせた造語。インターネット広告の広告効果を高めるさまざまな技術

旅行・ホテル

インバウンドは前年比1,000倍を突破需要を掘り起こす企画が国内外向けに次々誕生

【基礎知識】
旅行業界を構成するのは、旅行業と旅行業者代理業。旅行業はツアーなどを企画する企業で、国内・海外とも企画できる第1種、国内のみ企画できる第2種、一定の条件下で国内が企画できる第3種、特定区域の国内のみ企画できる地域限定がある。旅行業者代理業は、旅行業社が企画したツアーを代理販売する企業。最近はOTA※1も注目されている。ホテル業界に属する企業には、ホテル専業会社のほか、鉄道・航空系や開発・不動産系といった企業グループ傘下の企業がある。業態としては、低価格が特徴のビジネスホテル、観光地で長期滞在も可能なリゾートホテル、レストランや結婚式場なども備えたシティホテルなどがある。

【展望】
コロナ禍収束後、インバウンドは順調。2024年の訪日外国人旅行者数は、過去最高を記録した。こうした外国人旅行者に注目されているのが、地域と共生した旅行が満喫できる「サステナブルツーリズム※2」だ。また、国内に向けては新たな旅行需要を掘り起こす「第2のふるさとづくりプロジェクト※3」が推進されている。こうした新コンセプトにマッチした旅行プランの企画が、旅行業界を大きく飛躍させる要因になると考えられている。ホテル業界も、インバウンド需要を成長に活かすため、外国語対応や食事メニューなど、異なる背景を持つ旅行者が快適に過ごせる配慮に注力。国内向けでは、ビジネス利用が需要を先導するとの予測から、新しい出張のスタイルとして「ブリージャー※4」を提案。このほか、ユニバーサルツーリズム※5が堪能できる施設という、利用機会を広げる新たな取り組みも進められている。

※1 Online Travel Agent:インターネット上だけで販売を行う旅行会社。24時間いつでも購入でき、来店が不要な利便性が支持されている 
※2 直訳は「持続可能な観光」。環境汚染や自然破壊などにつながる商業化を避け、地域の自然や文化を活かし、住民の暮らしを良くしていくことも視野に入れた観光地作りをめざすこと 
※3「 何度も地域に通う旅、帰る旅」というコンセプトで、新しい旅行スタイルの普及・定着を図る観光庁のプロジェクト 
※4 ビジネス(Business)とレジャー(Leisure)を合わせた造語。出張前後の日程を余暇に充て、観光やレジャーを楽しむ旅行形態 
※5 すべての人が楽しめるように企画された旅行。さまざまな支援サービスが付属しており、高齢や障がいの有無などに関わらず、誰もが気兼ねなく参加できる

教育

リスキリング※1など、多様化する教育ニーズ
対応サービスの早期企画・実施が、より重要に

【基礎知識】
教育業界は、乳幼児から園児、児童、生徒、学生、さらに社会人やシニアなどに幅広く学習サービスを提供する企業で構成される。大きくは、「学習塾・予備校・通信教育」と「社会人教育・資格取得」に分けられる。指導スタイルは、複数の受講者に講師が授業を行う「集団型」、受講者と講師が1:1で学習する「個別型」のほか、最近は受講者の自習をメインに疑問点のサポートを講師が行う「自立型」も増えている。また、対面による指導以外にも、「通信教育」やインターネットを活用した「オンライン学習(eラーニング)」がある。

【展望】
教育業界は、少子高齢化で子ども一人にかける教育費が増加していること、アクティブシニアが趣味を積極的に楽しむ傾向などが追い風になっている。こうした中、学習塾へのニーズは、年々多様化している。学習意欲の増進、学校授業の補完による成績向上、希望する高校・大学への合格支援、思考力・判断力・表現力の育成などだ。すべてのニーズに応える総合型と特定ニーズに応える特化型があるが、成長を支える重要な要因になるのは、顧客に満足してもらえる高付加価値サービスの提供。そのために、サービス品質を効率よく向上するためのEdTech※2導入や、ニーズに応える優秀な講師を充実させるためのM&Aなどが進められている。ビジネス社会では産業構造の変化を見据えて、社員のスキル向上をめざす企業や個人の市場価値を高める目的でリスキリングが加速。社会人スクールでは、こうしたニーズに応えるプログラムが次々に登場している。変化する教育ニーズをいち早く捉え、対応するサービスを提供することの重要性が、以前にも増して高まっている。

※1 職業能力の再開発、再教育。新しい職種に就くため、あるいは、いまの職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために必要なスキル獲得や資格取得に取り組むこと 
※2 Education(教育)とTechnology(技術)を合わせた造語。ITを応用して教育に変革を起こそうという取り組み

コンサルティング

待ったなしの企業課題が目白押し、的確な解決策の提案に高まる期待

【基礎知識】
企業が抱える課題に、解決策を提案する企業で構成される業界。コンサルティング会社は、外資系も多く参入している。業態の分類は得意分野で行い、経営戦略などに強い戦略系、ITを活用した業務改革やシステム導入などはI T系、財務や人事、金融など特化した分野の専門系、あらゆる分野に精通しているのは総合系と呼ばれる。このほか、官公庁からの委託調査や政策提言を主に行うシンクタンク、特許など知的財産を専門に扱う知財コンサルタントなどがある。

【展望】
VUCA※1の時代を迎え、企業経営の難しさは時とともに増している。“2025年の崖※2”や“2030年問題※3”への対応は、待ったなしだ。社会動向に即応した経営戦略や業務プロセスの最適化はもちろん、DX対応、SDGs・ESGへの対応も急務だ。これらの解決のため、コンサルティング業界への期待は極めて高く、成長は今後も続くと予測されている。また、海外進出を視野に入れる企業も多い。
※1 Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語。社会やビジネスにとって将来の予測が困難な状態を指す 
※2 2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」で提示されたもの。企業のITシステム刷新が滞ってDXが遅れると国際競争力を失い、2025年から2030年の間に発生する損失は最大で毎年12兆円まで増加すると予測されている 
※3 少子高齢化に伴う労働人口減少により、2030年に顕在化すると考えられる社会問題の総称。多くの企業が人材不足に陥るほか、人材獲得競争の激化や人件費の高騰などに直面すると考えられている

人材サービス

労働力の確保と働き方の変化を主要因に、業界の成長は今後も継続

【基礎知識】
人材サービス業界に属するのは、派遣・職業紹介・求人広告・アウトソーシングの各事業を展開する企業。日本企業はもちろん、外資系も幅広い人材サービスを展開している。派遣業は、登録している求職者の中から企業が求めるスキルを持つ人材を一定期間だけ派遣する事業。職業紹介業は、求人企業に対して求める能力やスキルを持つ求職者を紹介。求人広告業は、企業の求人情報をメディアに掲載して求職者に提供し、企業とのマッチング機会を創出する。アウトソーシング業は、依頼企業から業務を請け負い、雇用する人材を活用して遂行する事業を展開している。

【展望】
労働力の確保が課題の企業では、同一労働同一賃金※1、ジョブ型雇用※2といった労働環境の改善と同時に、人材サービスへ大きな期待を寄せている。この状況は長期に継続すると考えられ、業界は成長を続けると予測されている。もう一つの成長要因は、転職の一般化や副業が法的に認められるなど、働き方が多様化・流動化していること。企業側からも求職者側からもニーズのマッチングを図る人材サービスへの期待は高まっている。このため、HRtech※3を導入しマッチング向上に努める企業も増えている。

※1 パート社員も契約社員も派遣社員も、同様の業務に携わる正社員と比較して、不合理な待遇差を設けることを禁止する制度 
※2 職務や勤務地などを明確にして雇用契約を結び、成果で評価する雇用システム 
※3 Human Resources(人事・人材)とTechnology(技術)を合わせた造語。AIやビッグデータなどを活用し、人材の採用や配置、育成などの業務効率を向上させる

高齢者サービス

充実したサービス提供に向けて、高まり続ける介護スタッフの価値

【基礎知識】
高齢者サービス業界は、一人での日常生活が困難な高齢者に、食事や入浴などの介護サービスを提供する企業、および介護関連のサービスを提供する企業で構成される。介護サービスは、介護スタッフが高齢者宅に足を運ぶ訪問型、事業所に通う通所型、介護施設に入所し24時間365日を見守る入所型と、サービスの提供場所によって分類することが多い。また、介護施設には、主に社会福祉法人が運営する介護老人福祉施設、医療法人などが運営する介護老人保健施設のほか、民間が主体の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅※1がある。介護関連サービスでは、見守りサービスをはじめ、高品質な介護用品や介護業務の効率化支援システムなどの開発が進められている。

【展望】
2024年の高齢化率※2は、29.3%。過去最高を更新し、世界で最も高い数字となっている。今後も高齢化率は高まることから、業界は拡大が続くと予測されている。そのため、異業種参入や事業規模拡大による介護サービスの品質向上を目的とするM&Aが進んでいる。一方で、介護スタッフ不足が課題だ。そこで、待遇改善のほか、介護ロボットや介護サポート機器、AI、IoTの導入による業務の負担軽減など、働きやすさ向上の取り組みを推進している。

※1 介護、看護、医療などの有資格者が常駐する賃貸住宅。要介護度が低い人向け
※2 総人口に占める高齢者の割合

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その他

法人には、株式会社など営利を目的とする「営利法人」のほか、営利を目的としない「非営利法人」、公共の事業を行うことを目的とする「公法人」もある。非営利法人としては、NPO法人※1、一般・公益社団法人、一般・公益財団法人、社会福祉法人、学校法人など。公法人としては、独立行政法人や地方公共団体、特殊法人などがある。このほか、国や地方公共団体の行政事務を行う「行政機関」として、内閣に属する内閣府、総務省やデジタル庁といった省庁のほか、内閣に属さない会計検査院がある。

※1 Non-Profit OrganizationまたはNot-for-Profit Organization:特定非営利活動法人

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